環境DDを実施するメリットとは?
この記事では、M&A案件において環境デューデリジェンス(環境DD)を実施することによって、得ることができるメリット(利点)を出来るだけわかりやすく書いていきます。
どのようなM&A案件で環境DDを実施すべきなのかという観点のメリットではありません。そちらの観点について知りたい読者の方は、以下の記事の後半部分を参照ください
さて、世の中の物事には常に背中合わせの形でメリットとデメリットが存在します。
この記事では環境デューデリジェンスを実施する事で買い手企業にとってどのようなメリットが生じるのかを説明していきます。
あと、環境デューデリジェンスを実施することによるデメリットも少し書いてみます。
ただ、ここで1点だけ読者の方(あなた)の先入観を取り除く為に伝えておきます。
世の中のメリットとデメリットという考え方は、なんとなくメリットが50%、デメリットが50%やメリットが60%、デメリットが40%といった感じで比較的半々のイメージがあると思いますが、売り手企業に関する初期スクリーニングで土壌汚染問題などが懸念されるM&A案件では、環境デューデリジェンスを実施するメリットは99%です。
つまり、M&A案件の一定条件下では環境デューデリジェンスはとても重要なデューデリジェンス(DD)の1つだということです。
しかし、買い手企業の予算の関係上、最後の最後までデューデリジェンスの中での優先度は低いですが…(笑)。
環境デューデリジェンスをM&AのDDとして実施するメリットとは?
私の経験上、全てのM&A案件において、環境デューデリジェンスを実施する必要はありません。
「環境デューデリジェンスとは?」でも書きましたが、環境デューデリジェンスはM&A取引の売り手企業の産業や歴史的な土地の履歴などの観点から、実施が検討されるべきです。
したがって、以下の観点から環境デューデリジェンスが実施されないケースもあります。
- 売り手企業の産業が環境デューデリジェンスを明らかに必要としない産業である。
- 売り手企業が工場、研究 (R&D) センター、倉庫や整備場等を保有していない。
- M&A取引の規模や期間が限定的であり、環境デューデリジェンスを実施する必要がない。
- DDの予算の関係から環境デューデリジェンスの実施を検討していない など
仮にあなたが買い手企業の環境DDの担当者であった場合、環境デューデリジェンスの実施の判断は、M&A案件の初期段階においてファイナンシャルアドバイザー (FA) や法務DDチームにその必要性を相談すべきです。
M&A案件の初期段階において、環境デューデリジェンスの実施の有無を検討することを推奨するのには理由があります。
別の記事で実際の環境デューデリジェンスの実務などの詳細を説明していきますが、環境デューデリジェンスでは現場視察が重要タスクの1つとなっています。
つまり、必然的に売り手企業の現地工場や所有する土地へ訪問することが必要になるケースがあるということです。
売り手企業の現地工場や所有する土地を視察するということになると、少なからず買い手企業と売り手企業間での日程調整などが必要となります。
つまり、現地訪問の承認を得るための売り手企業と買い手企業間の調整及び日程調整、次に買い手企業と環境コンサルタント会社との日程調整が必要となるということです。
日程調整では売り手企業と買い手企業間で何回かのメール又は電話でのキャッチボールが必要となります。
したがって、あなたのご想像のとおり、M&A取引の締結数日前に短期間で一般的な環境デューデリジェンスを完了させるということは不可能なんです。
上記の理由のとおり、M&A案件を検討する初期の段階で環境デューデリジェンスの実施の有無の方向性を決定しておくことが重要です。
環境デューデリジェンスを実施するメリットとは?
さて、上述の環境デューデリジェンスの実施を検討すべき理由とタイミングを学んだ上で、環境デューデリジェンスを実施するメリットを書いていきます。
「環境デューデリジェンスとは?」でも書きましたが、環境デューデリジェンスで調査される主な項目は以下のとおりです。
- 🔸既存 (過去) の土壌・地下水汚染の状況
- 🔸潜在的な土壌・地下水汚染の有無
- 🔸処分が必要なPCB含有機器やアスベスト材の有無
- 🔸環境法及び労働安全衛生法の法令違反 など
この環境デューデリジェンスの主な項目を調査することで買い手企業が得られる1番目のメリットは、環境デューデリジェンスの結果より買い手企業の経営層が歴史的又は潜在的な土壌・地下水汚染問題や法令違反等のおおまかな懸念事項をM&A取引のクロージング前に把握し、M&A取引のGo又はNo Goの判断(M&A取引を進めるか否かの判断)の参考にできることです。
表現を変えると民放644条の「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」を経営陣が必要に応じて遂行できるということになります。
例えば、こんな事例を図にしてみました
上の例は良くないパターンの事例なので、良いパターンも図にしてみました
環境デューデリジェンスを実施する2番目のメリットは、M&A取引を進める上で環境デューデリジェンスによって顕在化した懸念事項の対策をクロージング前に検討することができることです。
例えば、以下のような懸念事項とその対策が考えられます。
土壌汚染問題の表面化
適切な企業の買収価格を決定する為に概算浄化費用の算出土壌
汚染問題の表面化
環境汚染賠償責任保険の適用の検討
法令違反の発覚
対象企業に対して法令違反事項の改善要求
土壌汚染問題の表面化、法令違反の発覚
株式譲渡契約書上での回避 など
その他のメリットとしては、買い手企業と売り手企業間で環境デューデリジェンスを介して環境面に関する正確な情報の共有をおこなうことから、両企業の環境デューデリジェンス担当者間で信頼関係が構築されます。
この信頼関係の構築は、結果的にクロージング後の企業間の統合プロセス (PMI:Post Merger Integration) において、環境面の課題に対する取組みを効率よく進めることが可能になります。
また、この専門サイトでは記載の対象外としていますが、環境デューデリジェンスを実施するのが売り手企業の場合は、Seller’s DDを実施したという事実に基づいてM&A取引において、環境面の説明責任を果たすことができます。
あくまでも私の経験に基づく見解ですが、改めて整理すると環境デューデリジェンスを実施するメリットは、以下の点です。
・1番目の企業の経営層がM&A取引のGo又はNo Goの判断の参考にできるという点。
・2番目の顕在化した懸念事項の対策を検討することができるという点。
この2点のメリットを統合的に検討することで、買収金額を環境側面から精査し、適切な金額でM&A取引を成立させることができます。
最後まで読んで頂き有難う御座いました。