環境DDの計画

環境デューデリジェンスにおける利益相反の確認

環境デューデリジェンスにおける利益相反 (Conflict of Interest) の確認

 

他の専門DDチームと同様に、環境DDにおいても利益相反の確認を実施します。

利益相反の確認は、グローバルではConflict of Interest Check (COI Check) などの名称となっています。

 

もしかしたら、読者の方(あなた)が「利益相反?ちょっと聞いたことがないな~」という状況かもしれないので、利益相反行為に関して少し書いてみます。

 

茶ポール
茶ポール
利益相反?なんやこの言葉は?まったくわからんわ。利益に関係するってことか?なんやインサイダー取引みたいなもんか?
のみエコ
のみエコ
そうですよね。ご存知でないとそんなイメージですよね。利益相反行為はインサイダー取引のことではありません。たしかにM&A取引には株式市場が関係することもあり、インサイダー取引に関しても知識として知っておく必要があります。ただ、別物です。利益相反行為は、専門DDチームの過去の実績に深く関係してます。
茶ポール
茶ポール
なるほど。企業側の問題ではなくて、環境コンサルタント会社や他の専門DDチームに生じる問題ってことやな。
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、素晴らしい。その通りです。

 

環境デューデリジェンスの利益相反行為とは?

 

まずは、利益相反行為とは?ということですが、以下に整理してみました。

 

利益相反行為とは、ある行為により一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のことです。

 

あなたは何かピンっとくるものがありましたか?

 

おそらくないと思います。私も初めてこの言葉を知った時、なんだこの言葉は?っとなりました。まあ、今でも私は法律家ではないのでそこまで詳しいわけではありません(笑)。

 

なので、私なりに調べてみたんです。

少し調べてみると利益相反という言葉は、世間一般において会社と取締役の間、大学教授と大学教授が立ち上げたベンチャー企業の間、政治と企業の間などで発生することが多い問題であるということが理解できました。

まだ、この程度の説明では足りませんよね。色々な種類の利益相反問題があるようなので、環境デューデリジェンスの利益相反行為に着目して書いていきます。

 

環境DDの利益相反行為の最たる例は、環境コンサルタント会社(B社)が買い手企業(C社)から環境DDの検討依頼を受けたM&A案件において、環境DDの対象企業となる売り手企業(D社)から過去にD社が保有する工場や土地の環境調査の依頼を受けていた事実を隠した状態で、買い手企業の環境アドバイザーとして再度、売り手企業(D社)の保有する工場や土地を評価することです。

 

文章で共通の理解をしようとすると、この「利益相反行為」に関してはうまくいきそうにないので、上の文章を図にしてみました 

 

 

どうですか。少しはイメージの共有ができたでしょうか?

 

簡単に要約すると、最初は味方だったのに急に敵になることはできないということです

 

茶ポール
茶ポール
なるほど。ほんまやな。この前まで一緒に仕事していた企業が急にライバル会社の企業と仕事はじめたら、こっちの手の内ばれてしまって大変なことになるわ。
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、そのイメージのとおりです。さすがに守秘義務契約などがあるので手の内はばれませんが、万が一ということもあります。
茶ポール
茶ポール
「ある行為により一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のこと」の説明文の意味が明確になったわ。
のみエコ
のみエコ
やはり、イメージの共有の為に図を作成するということは、読者の方にとって良いことなんですね。勉強になります。
茶ポール
茶ポール
でも、環境DDの利益相反ってのはこの事例だけってことか?
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、するどいですね。実は環境デューデリジェンスでも色々なパターンの利益相反行為があるんです。ここから少し詳細なことを書いていきますね。

 

色々なパターンの環境デューデリジェンスの利益相反行為がある

 

知り合いの環境コンサルタント会社のコンサルタントにインタビューしてみたのですが、他の専門DDと同様に環境DDに関連する利益相反行為はたくさんありました。

少しインタビューした内容を整理してみました。

 

個人に関する利益相反行為

環境DDの担当者又はその家族が、環境DDの対象となる企業の財務状況の詳細を知りえる立場にいる。

 

環境DDの担当者又はその家族や親しい友人が、環境DDの対象となる企業の経営陣にいる。

 

この「個人に関する利益相反行為」は、インサイダー取引に発展するケースになりかねません。

利益相反行為の対象者が買い手企業の環境コンサルタント会社であった場合、売り手企業の重要な情報が筒抜けになります。

 

企業に関する利益相反行為

環境DDの対象となる企業が、環境コンサルタント会社の主要な顧客の場合。

 

環境DDの対象となる企業が、環境コンサルタント会社の主要な協力会社や取引先の場合。

 

この「企業に関する利益相反行為」は、長年の顧客とのお付き合いが関係します。

長年のお付き合いを通して、知りえる情報には企業としての重要な情報が含まれていることがあります。良い関係性が構築されているからこその結果とも言えます。

自社の重要顧客がM&A案件の対象となっている場合は、環境コンサルタント会社として、引き受けることはなかなか困難だと思います。あくまでも、私の考え方ですが…。

 

その他の条件に関する利益相反行為

環境DDの対象となる企業の工場から地下水流向上流側の極めて近い場所で、環境DDを実施する予定の環境コンサルタント会社の主要顧客が工場等を操業しており、当該工場で汚染が顕在化している状態で調査や浄化工事を委託され実施している場合。

 

環境DDの対象となる土地を売り手企業ではなく、環境コンサルタント会社の主要顧客が保有している場合。

 

売り手企業および買い手企業から同じM&A案件を依頼された場合。(ただし、両社合意の基、利益相反にならないケースもあります。)

 

この「その他の条件に関する利益相反行為」の1番目は、偶発的に売り手企業の情報を入手していたというケースです。

稀なケースではありますが、確認の抜けがないようにしないといけません。

 

2番目は長年の顧客とのお付き合いが関係します。

特に不動産会社さんとのお付き合いがたくさんあると、こういったケースに出くわす可能性があります。

 

3番目のケースは、環境コンサルタント会社の悩ましいところです。

人気がある会社ゆえにこういったケースが発生することがあります。売り手企業、買い手企業の両社の合意を得れば、利益相反行為の問題が解消されることもあります。

 

さらに、3番目のケースを解決するために「チャイナウォール:中国の壁」という方法があるそうです。

 

あなたは、「チャイナウォール(中国の壁)」に関してどんなイメージをお持ちですか?

 

私は始めてこの言葉を聞いた時、万里の長城をイメージしました。

なんでも、1つの環境コンサルタント会社の中で2つのチームを結成し、売り手企業と買い手企業に各々のチームが協力するという方法だそうです。

互いのチームの情報管理を徹底して、データを保管するサーバーや案件のことを議論する場所などを常に分けるそうです。

 

普段は仲間だけど、「チャイナウォール」を発動するM&A案件では、昨日の味方が今日の敵っといった感じですね。

 

ただ、心配は一切要りません。

環境コンサルタント会社は公平性を維持する義務があるので、チャイナウォールを発動させても情報管理がしっかりされれば、適正な環境デューデリジェンスを実施することができます。

 

ここまで色々と書きましたが、いずれのケースも、条件によりその利益相反行為か否かの判断が異なります。

もし、環境コンサルタント会社が上記のような状況にある場合は、慎重に必要な情報を収集し、最終的な判断をする必要があります。

 

茶ポール
茶ポール
チャイナウォールがインパクトありすぎて、他の事例が頭に入ってこんで!
のみエコ
のみエコ
たしかに、そうですね。でも、他の事例もルール上、とても大切なことです。
茶ポール
茶ポール
そうやな。環境DDを依頼する側も環境DDを受ける側のこの利益相反の確認はしないとあかんなー。
のみエコ
のみエコ
環境デューデリジェンスを実施している最中に発覚したら…..大変ですからね。

 

環境デューデリジェンスの利益相反(Conflict of Interest)の確認の方法

 

引き続き、環境デューデリジェンスの利益相反の有無の確認に関して書いていきます。

この部分も環境コンサルタント会社にインタビューした内容です。

 

例として、上述した環境DDの利益相反行為の最たる例における利益相反の確認について説明していきます。こんな例です。

 

環境DDの利益相反行為の最たる例は、環境コンサルタント会社(B社)が買い手企業(C社)から環境DDの検討依頼を受けたM&A案件において、環境DDの対象企業となる売り手企業(D社)から過去にD社が保有する工場や土地の環境調査の依頼を受けていた事実を隠した状態で、買い手企業の環境アドバイザーとして再度、売り手企業(D社)の保有する工場や土地を評価することです。

 

例の場合、確認方法は至ってシンプルです。

対象国が海外であった場合、その対象国の対象地を担当する環境DDチームに該当する企業や土地に関して、過去に環境サービス又は類似するようなサービスを提供したことがあるか否かを確認することになります。

 

利益相反の確認は、企業名ベースで実施されることが多いですが、インタビューした環境コンサルタント会社の経験上、対象工場や対象地の住所まで詳細に把握したうえで、利益相反の確認を実施することが望ましいようです。

 

理由としては、環境デューデリジェンスの対象となる企業がリースの土地で工場等を操業していた場合、企業名ベースでは「利益相反なし」の結果であっても、土地の所有者 (別企業) に対して環境調査等のサービスを提供している可能性もあり、利益相反行為となるケースがあるからです。

 

読者の方がイメージしやすいように図を作成してみました 

 

 

利益相反の確認は、M&A取引の対象サイト(又は対象国)の数にもよりますが、時差などを考慮しても一般的に1日間~3日間とのことでした。

 

利益相反の確認は、企業内で環境DDを実施する担当者にとっても、環境コンサルタント会社の選定の観点から重要です。

 

環境デューデリジェンスを依頼したい環境コンサルタント会社に、利益相反確認のスピーディーな対応を期待したいところですが、上述のとおり、少し時間がかかります。

企業内で環境DDを実施する担当者は上記の利益相反の確認の流れと期間を十分に考慮した上で、環境コンサルタント会社の選定のスケジュール期間を確保することが重要です。

 

また、環境コンサルタント会社は、プロポーザルの提出期間が直近であっても、プロポーザルの提出前までに必ず適切な利益相反の確認を実施しておくことが必要です。

 

茶ポール
茶ポール
企業内で環境DDを実施する担当者も環境コンサルタント会社もお互いに、利益相反の確認について知っておくと、あとでややこしい問題に発展することを避けられるな。
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、そのとおりです。さっきも言いましたが、環境デューデリジェンスを実施している最中に発覚したら…..大変ですからね。ちょこっと、そのへんのことを書いてみます。

 

環境デューデリジェンスの利益相反の確認はなぜ必要なのか?

 

なぜなら、環境デューデリジェンスを実施中に利益相反行為が発覚すると、環境デューデリジェンスの業務内容が制限される可能性があるからです。

 

勘が鋭いあなたならもう、お分かりですよね。そうなんです。

 

環境デューデリジェンス中に極端に環境デューデリジェンスの評価範囲などが制限されると最終的な評価にも影響を及ぼしかねません。

 

ある環境コンサルタント会社が利益相反の確認を怠った為に発生した失敗例を図にしてみました。

 

条件として、企業内で環境DDを実施する担当者が緊急案件として環境コンサルタント会社に依頼し、その緊急性と検討時間が極端に短かったことから環境コンサルタント会社が利益相反の確認を怠ったという設定になっています。

 

 

どうでしょうか?

上記の図の状況は、企業内で環境DDを実施する担当者にも環境コンサルタント会社にもつらい状況ですね。

こういった状況に陥らないように、双方で利益相反の確認をすることが良いと私は考えます。

 

茶ポール
茶ポール
企業内で環境DDを実施する担当者と環境コンサルタント会社の双方が確認するってのはわかったんやけど、なんか効率が良い確認方法ってのはないんかいな?
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、そう思いますよね。少し、私の経験の話を書いてみようと思います。

 

環境DDの利益相反の確認の効率的な方法とは?

 

利益相反行為を未然に防ぐために何か良い方法がないのか?っとあなたも考えてみて下さい。

 

どうですか?何か良い方法があれば、教えてくださいね。

 

私の経験上、以下の方法をこの記事に書いておきます。

環境コンサルタント会社は、海外案件でM&A案件の事前情報で利益相反行為の可能性が高い場合や詳細情報が不透明な場合、対象国の海外環境DDチームと綿密に協議することが望ましいです。

 

企業内で環境DDを実施する担当者は、ヴァーチャル データ ルーム (VDR) 内の開示資料を確認し、見積り書や提案書を依頼している環境コンサルタント会社の環境調査報告書などがアップロードされていないかを確認してみましょう。

 

環境コンサルタント会社も事前情報で利益相反行為の可能性が高い場合や詳細情報が不透明な場合は、企業内で環境DDを実施する環境担当者にVDRレビューをお願いすることが望ましいです。

 

未然に防ぐことができる利益相反行為に関するリスクは、事前に回避しておくべきです。

 

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。