こんなことを書いてます
油汚染土壌と海外のM&A環境デューデリジェンスについて
前回の記事では国内における環境デューデリジェンスにおいて、油汚染をどのように扱えば良いのかという点を、私の長年の経験と環境省が公表しいる油汚染対策ガイドラインを参考に説明させて頂きました。
もし、まだ読んでいないよ!という読者の方がいれば、以下を参照ください。
そして、今回は海外のデューデリジェンスにおける油汚染土壌について書いてきます。
そもそも、国内ではベンゼンや鉛を含有しない油は、土壌汚染対策法の対象外となりますと説明しました。
では、海外では油汚染土壌はどのように取扱われているのでしょうか?
実は海外では土壌汚染を引き起こす主な要因の1つとして「油」が着目されています。
したがって、油汚染を定量的に評価する為に油に関する土壌や地下水の基準を設けている国が多いです。
この記事では、どんな国で?どんな基準値で?油を汚染として判断しているのかを説明していきます。
ただし、現段階ではリサーチが進んでいないので、数カ国のみです。
今後、リサーチが進む中で、この記事で追記していこうと考えています。
アメリカ(米国)での油汚染 土壌の考え方について
私の経験上、アメリカ(米国)は油の土壌汚染の対策や法律の施行が進んでいる国のひとつであるという印象があります。
その要因としては、石油のメジャー会社が多く存在し、石油産業界においてもガソリンスタンドや製油場での土壌汚染調査の実施が促進されてきたという歴史が考えられます。
日本国内のガソリンスタンドでも、地下タンクなどからの油の漏洩に関する土壌調査が多く実施されていたと聞いたことがありますが、その調査方法や評価方法の基礎はアメリカ(米国)からの輸入されたプログラムであるということを知り合いの環境コンサルタント会社から聞いたことがあります。
また、アメリカ(米国)の多くの州法でも何ガロン以上の油が敷地内の土壌や表面水などに漏洩した場合に、消防や行政に直ちに通知し適切且つ迅速な対応を行うことという条項が設けられています。
アメリカ(米国)には油田があるというのも1つのキーポイントなのかもしれません。
油田における作業において、油の漏洩防止は重要事項ですからね。
折角なので、他国と油汚染の関心度合いを比較できるように、油に関する物質の基準値なども記載しておきます。
アメリカ(米国)における油汚染に関する評価では、US EPAのRegional Screening Levelで以下の物質と基準が参考とされています。
ただ、州法において基準が存在する場合は、州法の基準が優先されるケースが多いです。
一点、注意です。
法令や基準値に関する情報は、リサーチ時点の情報です。
また、私の経験の引き出しから情報を捕捉しているので、詳細な情報は必ず読者の方が詳細を調べてみてください。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 5.1 mg/kg |
---|---|
Toluene | 4,700 mg/kg |
Ethylbenzene | 25 mg/kg |
Xylenes | 250 mg/kg |
Lead | 800 mg/kg |
TPH(Aliphatic Low) | 2,200 mg/kg |
TPH(Aliphatic Medium) | 440 mg/kg |
TPH(Aliphatic High) | 3,500,000 mg/kg |
TPH(Aromatic Low) | 420 mg/kg |
TPH(Aromatic Medium) | 560 mg/kg |
土壌の数値は、M&A取引の環境デューデリジェンスを考慮して、Industrial soilを参照にしています。
ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの4つの物質は、各々の物質の頭文字を用いてBTEXと表現されます。
読者の方で、油汚染土壌調査を実施したことがある経験をお持ちの方は、BTEXという言葉を聞いたことがあると思います。
BTEXは主にガソリンによる油土壌汚染を評価する時に分析される項目ですが、初めて聞いたよ!という読者の方は必ず読者の方の環境デューデリジェンス勉強用ノートにメモしておいてください(笑)。
正直、これらの数値が高いの低いのかは微妙な判断ですよね。
私の個人的な感覚では、Total Petroleum Hydrocarbon(TPH:全石油系炭化水素)は寛容な基準値であると考えています。
ただし、分析方法自体が異なるので日本の業界基準の900~1,000mg/kgと直接比較することはできません。
ただ、油汚染土壌や油汚染地下水を定量的に評価できる基準があるということは、アメリカ(米国)における環境デューデリジェンスを実施する際に、M&A取引のGo / No goなどを含む判断をする時にとても参考にある情報です。
あと1点、注意事項です。
アメリカでは油汚染土壌が存在したとしても、その油汚染土壌を浄化するか否かの判断は、リスクベースで考えられる傾向にあります。
つまり、上述の各々の基準値を超過していたからといって、直ちに浄化しなさいという措置が行政から出るということや法令上要求されているということは、また別の話になります。
オランダでの油汚染 土壌の考え方について
オランダも土壌汚染に関しては、施策などが進んでいる国の1つといえます。
特に土壌汚染の基準に関しては、グローバルでの環境デューデリジェンスのフェーズ2調査の分析結果を「オランダ基準(Dutch Standard)」と比較している事例を私はたくさん経験してきました。
オランダ基準は、1994 年にオランダの住宅・国土計画・環境省によって制定され、2013 年に更新された土壌及び地下水の基準です。
土壌及び地下水汚染の判断指標となる介入値(Intervention Value)とは別に、浄化対策目標として異なる値(Target Value)が設定されているのが特徴的です。
環境DDの対象国(売り手企業の対象工場が位置する国)に土壌汚染に特化した法律やガイドラインが存在しない場合は、環境デューデリジェンスのフェーズ2調査で比較対象として介入値(Intervention Value)が用いられるケースが多かったです。
そんなオランダの油汚染土壌の評価方法では、日本の油臭と油膜の有無の確認ではなく、アメリカと同様に関係物質に定量的な基準値があります。
オランダにおける油汚染に関する評価では、Soil Remediation Circular 2013で以下の物質と基準が参考とされています。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 1.1 mg/kg |
---|---|
Toluene | 32 mg/kg |
Ethylbenzene | 110 mg/kg |
Xylenes | 17 mg/kg |
Lead | 530 mg/kg |
Mineral oil | 5,000 mg/kg |
実はSoil Remediation Circular 2013にはTPHという記載がありません。
しかし、私の知り合いの環境コンサルタント会社はミネラルoilをTPHとして解釈して、フェーズ2調査の分析結果と比較していました。
中国での油汚染 土壌の考え方について
中国では2019年1月1日から土壌汚染防止法が施行されています。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 4 mg/kg |
---|---|
Toluene | 1,200 mg/kg |
Ethylbenzene | 28 mg/kg |
Ortho-Xylene | 640 mg/kg |
Meta¶-Xylene | 570 mg/kg |
Lead | 800 mg/kg |
TPH(C10-C40 sum) | 4,500 mg/kg |
基準値はChinese National “Soil environmental quality-Risk control standard for soil contamination of development land (Trial) GB36600-2018”, Risk Screening Value for Class II Landuse です。
つまり工場用地の基準です。
タイでの油汚染 土壌の考え方について
タイでは2016年に工業省からThe Regulation of Ministry of Industry, B.E. 2559 (2016), Re: Control of Soil and Groundwater Contamination in Factory Premises, announced in the Royal Gazette on 29 April 2016;が公表されています。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 15 mg/kg |
---|---|
Toluene | 520 mg/kg |
Ethylbenzene | 230 mg/kg |
Total Xylene | 210 mg/kg |
Lead | 750 mg/kg |
TPH(C5-C8) | 25 mg/kg |
TPH(C8-C16) | 25 mg/kg |
TPH(C16-C35) | 8 mg/kg |
基準値はDIW Soil Contamination Criteria (2016) です。
タイのTPHの基準は厳しいですね。
マレーシアでの油汚染 土壌の考え方について
マレーシアでは土壌汚染対策に特化した法律はありません。
しかし、2009年に土壌汚染に関する調査や浄化の3つのガイドラインがマレーシアの環境機関から発表されています。
■Contaminated Land Management and Control Guidelines No.1: Malaysian Recommended Site Screening Levels for Contaminated Land
■Contaminated Land Management and Control Guidelines No.2: Assessing and Reporting Contaminated Sites
■Contaminated Land Management and Control Guidelines No.3: Remediation of Contaminated Land
マレーシアでは2020年を目処に、土壌汚染に関する法律が施行されるという噂がありますが、実際の取組の進捗を私は確認できていません。
アメリカ(米国)のASTMを参考とされていることから、マレーシアで環境デューデリジェンスを実施する場合は、3つのガイドラインを参照にしつつも、ASTM1527の方法に基づいて評価するケースが多かったです。
フェーズ1調査はASTM1527に基づき、フェーズ2調査の分析結果の比較は、ガイドラインの基準値を参考にするというケースもありました。
そんなマレーシアにおいて、ガイドラインでは油汚染土壌を評価する為に以下の基準が記載されています。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 42 mg/kg |
---|---|
Toluene | 4,700 mg/kg |
Ethylbenzene | 250 mg/kg |
Xylenes | 280 mg/kg |
Lead | 800 mg/kg |
TPH(Aliphatic Low) | 220 mg/kg |
TPH(Aliphatic Medium) | 44 mg/kg |
TPH(Aliphatic High) | 350,000 mg/kg |
TPH(Aromatic Low) | 42 mg/kg |
TPH(Aromatic Medium) | 60 mg/kg |
TPH(Aromatic High) | 3,300 mg/kg |
基準値はガイドラインのIndustrial Standardです。
台湾での油汚染 土壌の考え方について
台湾には日本の土壌汚染対策法に類似する法律があります。
2000年に施行された「土壌及地下水汚染整治法」です。
この法律は、アメリカ(米国)のスーパーファンド法を参考に作成されていることから、土壌汚染対策法のように詳細な部分まで規定されています。
汚染された土地は日本の要措置区域のように指定される制度があります。
また、管理サイトと浄化サイトという2つの区分で汚染された土地が指定される制度となっており、各々のサイトを区別するための土壌及び地下水の基準が存在します。
台湾では、油汚染をTPHで判断することになります。
以下に土壌・地下水汚染管制基準を整理しています。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
Benzene | 5 mg/kg |
---|---|
Toluene | 500 mg/kg |
Ethylbenzene | 250 mg/kg |
Xylenes | 500 mg/kg |
Lead | 2,000 mg/kg |
TPH | 1,000 mg/kg |
分析方法は異なりますが、日本における900mg/kg~1,000mg/kgと類似す1,000mg/kgが設定されています。
メキシコでの油汚染 土壌の考え方について
メキシコには、日本の土壌汚染対策法にように土壌汚染に特化した法律はありません。
ただし、私がメキシコで油汚染に関連する環境デューデリジェンスを経験した時にNOM-138-SEMARNAT/SSA1-2012というガイドライン的なものが存在しました。
他にも重金属等の基準として、NOM-147-SEMARNAT/SSA1-2004がありました。
当時、当該環境デューデリジェンスを担当した環境コンサルタント会社は、このNOM-138-SEMARNAT/SSA1-2012に記載されていたTPHの基準を、フェーズ2調査の分析結果と比較していました。
数値は以下のとおりです。
油に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。
TPH – D (Diesel) | 5,000 mg/kg |
---|---|
TPH – MO (Motor oil) | 6,000 mg/kg |
各国の油汚染土壌の考え方を整理してみて
日本では、油臭や油膜の可否で油汚染土壌と判断することになります。
もちろん、補足的なデータとしてTPHを分析することになりますが、TPHに法的な基準はありません。
一方で海外ではTPHに法的な基準を設定し、定量的に判断する傾向にあることがこの記事を読めば理解できると思います。
読者の方が、環境デューデリジェンス業務において油の汚染に遭遇した際はこの記事を参照にして、環境コンサルタント会社と慎重に議論してみてください。
日本国内の事例では、ベンゼンや鉛を含まない油は土壌汚染対策法の対象外ということで環境デューデリジェンスの対象から除かれるケースもありますが、油によって汚染した土壌や地下水ほど風評被害という観点で厄介なものはありません。
しっかりと環境DDの中で向き合うべき事象です。
また、各国のTPHの基準は必ず最新の基準値を確認してください。
最後まで記事を読んで頂き有難う御座いました。