こんなことを書いてます
平成29年度 環境省 土壌汚染調査技術管理者試験の過去問の解答に挑戦 (その1)
環境デューデリジェンスを実施する中で、取得しておくことが望ましい資格があります。それが、環境省が認定する土壌汚染調査技術管理者の試験です。
土壌汚染調査技術管理者試験は2010年度から試験の実施が開始された国家資格の為の試験です。
主に土壌汚染対策法に基づいた問題が出題され、試験に合格すると国内で土壌汚染対策法に基づいた調査を行うことができる指定調査機関の技術管理者になることができます。
環境コンサルタント会社向けの試験ですが、企業で環境DDを担当する方でも勉強することで土壌汚染問題の基本的な知識を蓄えることができます。
受験資格は特にないようです。
ただし、試験に合格しても事前に3年間の実務経験がなければ、資格は付与されないので読者の方はお気をつけ下さい。
試験に合格してから、1年以内に資格の登録をしなければ合格が無効になってしまうそうです。
詳しくは、以下を環境省のウェブサイトを参照してください。
土壌汚染調査技術管理者試験の合格率など
土壌汚染調査技術管理者試験は難しいのか?という点ですが、平成29年度の合格率(19.2 %)を見るとかなり難しい試験だといえます。
平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験の合格基準は、次の(1)及び(2)を満たすことと発表されています。
(1)総合得点率 65 % 以上(52問 / 80問以上)
(2)問題区分別得点率
調査 30 % 以上
対策 30 % 以上
法令等 30 % 以上
調査、対策、法令等の一定の知識が必要になるということです。
ちなみに、平成30年の問題の数は、以下のとおりです。
調査 : 問1~問35
対策 :問1~問25
法令等:問26~問45
資格名が土壌汚染調査技術管理者試験なので、調査の問題が一番多いようです。
次に、受験申請者数、受験者数、合格者数、合格率です。
平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験結果
受験申請者数 : 1,371 名
受験者数 : 1,066 名
合格者数 : 205 名
合格率 : 19.2 %
合格率が約19 %の試験なので、土壌汚染問題に触れたことがある方でも、合格するとなると結構な勉強時間が必要となるのかもしれません。
しかし、ここで立ち止まる訳にはいきません。早速問題を知識習得の為に解いていこうと思います。
ただ、私の個人的な見解と知識で解いていきますので、答えが間違っていたらすいません。仮に答えが間違っていたとしても、私は責任を取りませんのでご了承下さい。
過去問題 平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題 1
問題 1 1,4-ジオキサンの性質に関する次の記述のうち、もっとも適当なものはどれか。
⑴ 比重は、トリクロロエチレンに比べて大きい。
⑵ 水溶解度は、トリクロロエチレンに比べて大きい。
⑶ 分子量は、トリクロロエチレンに比べて大きい。
⑷ オクタノール/水分配係数は、トリクロロエチレンに比べて大きい。
⑸ 蒸気圧は、トリクロロエチレンに比べて大きい。
この問題は、1,4-ジオキサンとトリクロロエチレンの性質を比較している問題になります。
なので、両物質の性質を整理してみました。
物質名:1,4-ジオキサン
本物質は、無色の液体であり、エーテル臭を有する。
CAS 番号:123-91-1
分子式:C4 H8 O2
分子量:88.11
モル質量:88.11 g mol−1
密度:1.033 g/mL
融点:11.80 ℃
沸点:101.1 ℃(760 mmHg)
比重:1.0337(20 ℃)
蒸気圧:37 mmHg(25 ℃)や3.9 kPa(20 ℃)
換算係数:1 ppm = 3.60 mg/m3 at 25 ℃, 気体(計算値)
分配係数(1-オクタノール/水)(logPow) :-0.27(実測値)
加水分解性:アルカリ条件下では加水分解しない
解離定数:水存在下で解離する基をもたない
水溶性:任意の割合で溶解
水溶解度:100 g/100 ml (PHYSPROP Database, 2005)又は1000000 mg/L(PHYSPROP Database、2009)
分解性:好気的→難分解、嫌気的→難分解
物質名:トリクロロエチレン
CAS 番号:79-01-6
分子式:C2 HCl3
分子量:131.4
モル質量:131.4 g mol−1
密度:1.46 g/cm3 (20 °C)
融点:-84.7℃
沸点:87.2℃
比重:1.4642(20/4℃)
蒸気圧:69mmHg(25℃)
換算係数:1ppm=5.46mg/m3(20℃、気体)
分配係数(1-オクタノール/水)(logPow) :2.61
加水分解性:湿気と光により徐々に分解して塩酸を生成する
解離定数:解離基なし
水溶性:1,280mg/L(25℃)
水溶解度:1.280 g/L
分解性:好気的→難分解。順化菌やメタン利用菌により分解されることが報告されている、嫌気的→嫌気性条件下で分解されるが, 分解速度は遅いとの報告がある。
では、整理した性質を比較してみます。
結果のとおり、問題の性質に関して1,4-ジオキサンがトリクロロエチレンより性質的に大きいのは水溶解度のみです。
したがって、私の見解では回答が「(2)」になります。
過去問題 平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題 2
問題 2 濃度0.030 mg/L のトリクロロエチレンが脱塩素反応によってすべてクロロエチレンに分解した。そのときのクロロエチレン濃度の土壌溶出量基準値に対する比として次に掲げるもののうち、もっとも近いものはどれか。
なお、クロロエチレンは、さらなる分解を起こしていないものとし、トリクロロエチレン及びクロロエチレンの分子量は、それぞれ 131、62.5 とする。
⑴ 0.36
⑵ 0.72
⑶ 1.4
⑷ 3.6
⑸ 7.2
私は、正直なところこの手の問題は結構苦手です。
あまり数字に強くないので、こんな問題が試験に出題されると直ぐに次の質問に取り掛かる傾向にあります(笑)。
しかし、今回は頑張って解いてみようと思います。
まず、トリクロロエチレンが脱塩素反応によってすべてクロロエチレンに分解したということなので、比の計算でクロロエチレンの濃度を算出してみました。
式は以下のとおりです。
0.030 (mg/L) : 131 = X : 62.5
X = 0.0143 (mg/L)になりました。
次にクロロエチレン濃度の土壌溶出量基準値に対する比を求めることになるのでクロロエチレンの土壌溶出量基準値を調べてみました。
クロロエチレンの土壌溶出量基準値は、0.002 mg/L以下でした。
単純に比を求めるということで0.0143 mg/L を0.002 mg/Lで割りました。
答えは、7.15でした。四捨五入して7.2です。
したがって、私の見解では回答が「(5)」になります。
過去問題 平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題 3
問題 3 地下水の流向を推定・把握する方法として次に掲げるもののうち、もっとも不適当なものはどれか。
⑴ 地下水位の水位勾配により地下水流向を推定する方法
⑵ 被圧帯水層の地下水流向を周辺地形から推定する方法
⑶ 観測井内における地下水の流向を専用の計器を用いて推定する方法
⑷ 地下水流向の測定結果等の資料や文献を調査し推定する方法
⑸ 観測井の中において、投入井戸から移動してくるトレーサの濃度変化を測定することで把握する方法
(1)~(5)の方法を確認していくことにしました。
まず、地下水の流向の推定・把握って何?と思った読者の方は以下の記事を参照ください。
地下水を推定するという取組の基礎が書かれています。
(1)は既存の地質調査などの報告書に地下水の情報が記載されていれば地下水の流向を推定・把握する方法としては正しいと考えられます。
(2)は被圧帯水層の地下水流向を周辺地形から推定すると書かれていますが、そもそも被圧帯水層とは?となった読者の方はいませんか?詳細を書いていきます。
首相官邸が作成した「地下水マネジメント導入のススメ」を参照にしています。
まず、上の図のとおり大きく地表水と地下水に分けられます。
地表水は、渓流や川のように地上を流れていたり、貯水池、ダムなどに貯められている水です。
地下水は、雨が地表面から地中に浸透して、土の中の隙間の部分に存在する水です。
被圧帯水層は難透水層によって上下部分を挟まれた状態で存在し,帯水層中に地下水面は存在しません。
被圧帯水層に存在する被圧地下水は、通常大気圧より高い圧力を有し、被圧帯水層に設置された井戸の水位は被圧帯水層の上面より上部に位置し、時には地表面より上部になる(自噴する)こともあります。
一方、不圧帯水層は下部を不透水層で仕切られ、上部は他の地層で境界付けられていません。したがって、降雨などの地下水涵養を直接受ける形になります。
不圧帯水層の上面境界は大気圧状態にある地下水面であり、不圧帯水層の厚さは地下水面の変動によって変化します。不圧帯水層に存在する地下水は不圧地下水とよばれます。
したがって、被圧帯水層の地下水流向を周辺地形から推定するという方法には少し無理があるように感じます。
なぜなら、地中の難透水層がどのように堆積しているかを確認することは困難であると考えられるからです。
既存も地質調査結果がたくさんあれば可能かもしれませんが、周辺地形から難透水層の堆積状況を確認することは極めて困難です。
(3)は私もある環境デューデリジェンスのプロジェクトで経験したことがあるので違和感がありません。観測井内における地下水の流向を専用の計器を用いて推定する方法は適切だと考えられます。
⑷は(1)と似ていますが、既存の地下水流向の測定結果等の資料や文献があれば参照する必要がありますし、有効な方法だと思います。
⑸は比較的大きな調査対象地で実施される方法だと理解しています。小さな調査対象地でトレーサ試験をしても….てなりますからね。トレーサ試験には、電解物質(食塩,塩化アンモニウムなど),染料(蛍光染料),アクチバブルトレーサ(放射化追跡子)などが使用されます。
したがって、私の見解では回答が「(2)」になります。
過去問題 平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題 4
問題 4 法の特定有害物質による汚染の移動メカニズムを下のA~Cの図に示した。汚染の移動メカニズムと特定有害物質の組み合わせとして、もっとも適当なものはどれか。
まずは、Aの図から内容を確認してみました。
気が付いたことは以下のとおりです。
1.原液の浸透
2.原液の滞留
3.難透水層の上面に汚染プルームが滞留していない
原液と書かれているので揮発性有機物の可能性が高いと判断しました。
つまり、ベンゼンかシス-1,2-ジクロロエチレンが条件にマッチする物質になるということです。
次に地下水面に原液が滞留するということと汚染プルームが滞留していないということです。
水より比重が軽い物質が地下水面に滞留することになります。
調べてみるとベンゼンの比重は、0.8787 (15/4℃) でした。
水の比重を1と考えると、ベンゼンは水より軽く地下水面に滞留することになります。
ちなみに、シス-1,2-ジクロロエチレンの比重は1.28です。
なので、地下水面に滞留することはありません。
こう考えると、Aはベンゼンになりますね。
回答は(1)と(4)に限定されました。
しかし、(4)の場合、Bの条件がマッチしません。Bの条件は以下のとおりです。
1. 原液の浸透
2.地下水面に原液がほとんど滞留しない
3.難透水層の上面に汚染プルームが滞留する
このパターンは、揮発性有機物の可能性が高く、且つ水より比重が重いものということになります。
(4)のBは重金属等のカドミウム及びその化合物です。
この段階で(4)ではないと判断できますね。
したがって、私の見解では回答が「(1)」になります。
最後にCの条件が鉛及びその化合物であることを確認します。
Cの条件は以下のとおりです。
1.溶液の浸透
2.土壌に吸着されている
私の記憶が正しければ、鉛は陽イオンであり土壌に吸着されやすいです。
したがって、Cの条件にマッチします。
過去問題 平成29年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題 5
問題 5 法の土壌汚染のおそれの把握(地歴調査)において特定有害物質の製造、使用または処理に該当する施設等の情報として次に掲げるA~Eのうち、もっとも適当なものの組み合わせはどれか。
A 有害物質使用特定施設から出る廃液は排水系統には流さず、ポリタンクに回収して廃棄物処理業者に処理を委託していた施設
B 石油精製業における原油等を精製(ベンゼンを製造するものは除く)する施設
C 表面処理剤としてフッ化水素を 3 %の濃度で添加していた表面処理施設
D 特定有害物質を固体以外の状態にせず、かつ、粉状または粒状にしない形での取り扱いをしていた作業所
E 特定有害物質を使用している病院で白衣のみを洗濯(ドライクリーニングを除く)していた施設
(1) A、C
(2) A、D
(3) B、C
(4) C、D
(5) D、E
まず、この問題の意味を理解するのに苦労しました。個人的に地歴調査を実施する際に有益な情報となる記述はどれですか?という観点で回答しています。
Aの記述に関しては、有害物質使用特定施設から出る廃液ということなので、何かしらの特定有害物質が廃液に含まれていることが想定できます。有益な情報です。
Bの記述に関しては、ベンゼンを製造するものは除くと記載されているので、調査の対象となる施設に該当しないということになります。有鉛ガソリンの観点から、鉛にも注視すべきところですが、平成29年度の問題なのでこの点はスルーしています。
Cの記述に関しては、表面処理剤としてフッ化水素を 3 %の濃度で添加していた物質を使用しているという理解になるので有益な情報です。
以下、土壌汚染対策法のガイドラインに記載されている一文です。
特定有害物質と含有量(%)の関係が記載されています。
「土壌汚染対策法第3条第1項の土壌汚染状況調査について」(平成15年5月14日環水土発第030514001号)によると以下の行為は、法第3条第1項の「製造、使用又は処理」に該当しないとされており、ここでも同様の考え方をとることができる。
i)特定有害物質を微量含む原材料を用いるが、当該特定有害物質に対し何らの働きかけをしない行為
ii)一般廃棄物処理施設(水質汚濁防止法施行令(昭和46 年政令第188 号)別表第1(以下「別表という。」)第71号の3)又は産業廃棄物処理施設(別表第71号の4)における廃棄物の処理及び下水道終末処理施設(別表第73号)における下水の処理
iii)特定有害物質を固体以外の状態にせず、かつ、粉状又は粒状にしない形での取扱い(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令(平成12 年政令第138号)第5条第1号参照)
iv)特定有害物質が密封された製品の取扱い(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令第5条第2号参照)
v)添加剤等として特定有害物質を微量(1%未満)含む物質の製造、使用又は処理
また、特定有害物質に関しては以下の記事を参照ください。
Dの記述に関しては、特定有害物質を固体以外の状態にせず、かつ、粉状または粒状にしない形での取り扱いをしていた作業所とあるので、上述のiii)の理解となり調査の対象となる施設に該当しないということになります。
E の記述に関しては、特定有害物質を使用している病院で白衣のみを洗濯(ドライクリーニングを除く)していた施設との記載がありますが、白衣に特定有害物質が付着しているか否かの記述がありません。情報が不十分な状態です。
したがって、私の見解では回答が「(1)」になります。
なんとか、問題5まで回答することができました。
環境デューデリジェンスの基礎知識の為に、今後も残りの問題を解いていこうと思います。
もし、あなたが土壌汚染調査技術管理者試験の対策の為にこの記事を読んでいるのであれば、ズバリ!まだ、間に合います!
焦らずに、一問一問を読んで理解してみてください!頑張ってください!
この土壌汚染調査技術管理者試験には、多くの参考書が販売されています。
できることはしておきましょう!
もし、あなたが購入されるなら自分に合った参考書をちゃんと選んでください。
私は、土壌汚染問題の基礎が分かる本を買いました。
参考書では、問題の答えだけが説明されているものもあります。
しかし、それでは応用力がつきません。
他の選択肢に関しても、なぜ正解なのかを知っておくべきです。
既に上述していますが、私の個人的な見解と知識で解いていきますので、答えや答えを導く過程が間違っていたらすいません。
仮に間違っていたとしても、私は責任を取りませんのでご了承下さい(笑)。
頑張ってひとつひとつ、ダブルチェック的な観点で調べてみてください。
残りの問題は以下の記事から回答を確認できます。
【まだ間に合う!】平成30年度 土壌汚染調査技術管理者試験の過去問の解説
最後までこの記事を読んで頂きありがとうございました。