こんなことを書いてます
環境デューデリジェンスにおけるもらい汚染とは?
この記事では、環境デューデリジェンスで評価すべき主要項目である土壌・地下水汚染問題の「もらい汚染」について書いていきます。
「もらい汚染」は、一般的な土壌汚染調査でも評価項目の1つにあげられているので、あなたも「もらい汚染」という言葉を聞くのは初めてではないかもしれません。
さらに、「もらい汚染 責任」、「もらい汚染 地下水」、「土壌汚染対策法 もらい汚染」といったキーワードで検索されたことがあるかもしれませんね。
ただ、「もらい汚染」という言葉は聞いたことがあっても、もらい汚染の詳細を知らないという方も多いです。
なので、もしあなたが「もらい汚染」という言葉を聞いたことがなくても安心してください。
この記事を読んで頂ければ、少しは「もらい汚染」のイメージが共有できると思います。
なので、語彙力はありませんが、私なりに「もらい汚染」について説明してみようと思います。
まず、「もらい汚染」の言葉のイメージから書いていきます。
もらい汚染って何?
「もらい汚染」とは、簡単に説明すると意図せずにもらってしまった汚染です。
あなたにイメージを共有する為に例え話を作ってみました。
例えば、あなたが一軒家程度の土地を所有しているとします。
その土地を購入する前に、読者の方は念の為に地盤調査に加え土壌汚染調査とを実施し、土壌汚染や地下水汚染がないことを確認していたとします。
数年後、その所有している土地の隣に中規模程度の工場が建設され、工場内の地下タンクから多量の化学物質が流出するという漏洩事故が発生したとします。
化学物質は、地面の深い位置まで漏洩し、地下水の流れにのって、あなたの敷地まで拡散してきたとします。
元々、土壌汚染や地下水汚染がなかった読者の方の土地が隣接する敷地から地下水汚染が流れてきて、汚染されたということになります。
このようなケースが「もらい汚染」と表現されます。
上記の例は最も一般的な例ですが、汚染土壌の不法投棄や産業廃棄物の不法投棄などから「もらい汚染」が発生するケースもあります。
汚染がない土地を購入したはずなのに、他人に土地を汚染させられるとなると、基本的には訴訟問題です。
土地の価格はもらい汚染による土壌汚染や地下水汚染により下落しますし、心理的な嫌悪感も生まれると思います。
まさに、もらい汚染による責任問題が発生するということです。
したがって、環境デューデリジェンスにおいても「もらい汚染」のリスクを評価することになります。
土壌汚染対策法に基づく調査でも、地下水などのもらい汚染を評価することがあります。
ただ、1点だけここで注意書きをさせて頂きます。
環境デューデリジェンスに関連するもらい汚染のリスク評価は、あくまでも「もらい汚染の可能性」の評価です。
ここは私の経験の話になってしまいますが、実際に環境デューデリジェンスの中でもらい汚染の可能性が高いという評価になった場合でも、もらい汚染の有無を正確に評価することは、かなり困難なことです。
長年の経験において、いくつかの案件で、もらい汚染の詳細なリスク評価を試みましたが、納得がいく結果まで辿り着けたのは数える程度です。つまり、難易度が高いということです。
なぜ、難易度が高いのか?この点を書いていこうと思います。
もらい汚染の可能性を検証するには?
ここからは環境デューデリジェンスや土壌汚染調査で一般的にもらい汚染の可能性をどう検証するのかを書いていきます。
少し専門的な話になりますが、知り合いの環境コンサルタント会社にも同じようなことの説明を受けたので、読者の方は私の経験や知識を信じて、読み進んでください。
もらい汚染の可能性の検証に関して、いくつかのキーワードがあります。
・対象地の周辺の化学物質や油などを多量に使用する工場などの情報
・対象地の周辺の土壌汚染サイトに登録されている土地の情報
・対象地の周辺の化学物質や油などの漏洩事故を起こした工場などの情報
・対象地の周辺の地下水や地形の情報
少なくとも上記の情報は、もらい汚染の可能性のリスクを評価する基本的な情報になります。
では、検証のプロセスはどうでしょうか?
以下に私が経験したプロセスを整理してみました。
1. 環境DDの調査対象地周辺に化学物質や油などを多量に使用する業種の工場の有無の確認
Google Mapや住宅地図などの資料でおおまかな情報を確認することができます。
2. 調査対象地周辺の土壌汚染サイトに登録されている土地の有無の確認
Webサイトでのリサーチ、行政機関への問い合わせで確認することができます。
国内では要措置区域や形質変更時用届出区域、米国では各州のCleanup Program やVoluntary Cleanup Program、台湾ではコントロールサイトなどです。
行政機関に問い合わせすることで意外と多くの情報を取得することができます。
3.調査対象地周辺の化学物質や油などの漏洩事故の有無の確認
基本的には、Webサイトでのリサーチ、行政機関への問い合わせで確認することができます。
但し、行政機関に関しては、環境部局への問い合わせと同様に消防機関への問い合わせも重要です。
漏洩事故の管轄が、消防機関の可能性もあるからです。
4.対象地周辺の地下水や地形の情報の確認
Google Mapや地形図などの資料でおおまかな情報を確認することができます。
プロセス的には1~4という順番ですが、私の経験上、キーポイントとなるのは、2の「調査対象地周辺の土壌汚染サイトに登録されている土地の有無の確認」と4の「対象地周辺の地下水や地形の情報の確認」です。
特に「対象地周辺の地下水や地形の情報の確認」は、地下水によるもらい汚染の可能性の評価には重要な検証プロセスです。
なぜ、私が「対象地周辺の地下水や地形の情報の確認」が重要な検証プロセスだと考えているのかを説明していきます。
ただ、少し専門的なことであり、経験重視の説明なので文章でダラダラと書かずに、あなたへ安易にイメージを共有することができるように図を作成してみました。
ある案件の「もらい汚染の可能性の検証」の事例です。
以下の図や文章に調査対象地の条件などを整理しています。
別製造工場Bが環境デューデリジェンスの調査対象工場とします。つまり、XXX企業が別製造工場Bの買収を検討しているということです。
XXX社が製造工場Aから製造工場Bを買収するというわけではありません。
製造工場Aと別製造工場Bの関係性は隣接する工場というだけです。
製造工場Bの右側には製造工場Aが存在しており、製造工場Bと製造工場Aの間に敷地境界線があります。
そして、製造工場Aは現地法に基づいて土壌汚染サイトに登録されています。
土壌汚染サイトに登録されている理由は、数年前の揮発性有機化合物(VOCs)の漏洩事故の発生です。
この段階で上述の検証プロセスに関して、XXX企業では1~3の情報が明確になっていることになります。
そして、あなたはこんな疑問を持ちませんでしたか?
「1~3で入手できる情報では、もらい汚染の可能性を評価することができないのでは?」
その通りです。
もらい汚染の可能性を評価する上で、とても重要なキーワードがあります。
それが、地下水の流れの方向(流向)です。
土壌汚染は、土壌に汚染物質が付着して汚染土壌が発生することです。
そして、この汚染土壌は、掘削される以外、自らが移動することがありません。
あなたは動く土なんて聞いたことがありますか?
私はありません。
では、なぜ、隣接する土地から汚染をもらってしまうという状況が生まれるのでしょうか?
要因は地下水の流れです。
化学物質や油が地中の中の地下水まで到達し、地下水に溶け込む形で移動するということです。
そして、汚染地下水に触れる土壌が汚染され、新たな土地で土壌汚染と地下水汚染が発生するというメカニズムです。
検証プロセスの4の「対象地周辺の地下水や地形の情報の確認」では、地下水や地形の情報と書いていますが、どのように地下水の流れの向きを確認するかについて書いていきます。
もらい汚染と地下水流向の関係
地下水の流れの向きは、対象となる土地において、地下水位を観測できる複数の地点を配置し、各々の地点の地下水位を把握すること確認することができます。
この地下水位を観測できる地点は、一般的に「観測井戸」と呼ばれています。
井戸と聞くと、水を汲み上げる飲用井戸を想像される方もいるかもしれませんが、環境デューデリジェンスや土壌・地下水汚染調査で設置される観測井戸の幅は直径5センチ程度で、全長は地下水位の深度によります。
また、M&A取引のDDだからと言って、他人(もらい汚染の汚染源の可能性がある土地の所有者)の土地に観測井戸を設置することはできないので、基本的には売り手企業の対象となる土地で少なからず3箇所の地下水位を測定できる地点を配置することになります。
先ほども書きましたが、地下水位を測定できる地点=観測井戸の設置や既存の観測井戸での測定です。
ちなみに、地下水位が安定しており、尚且つ地下水位の測定日が同じタイミングであれば、仮観測井戸の設置でも構いません。
環境デューデリジェンスでのもらい汚染の可能性の確認では、売り手企業の土地でフェーズ2調査を実施することになるので、一般的には仮観測井戸の設置になります。
仮観測井戸とは、地下水位の測定や地下水試料を採取後に井戸材を除去し、掘削した穴を埋め戻す一時的に設置された井戸のことです。英語ではTemporary Monitoring Wellと表現されています。
先ほどから井戸の設置と書いていますが、観測井戸又は仮観測井戸は土壌掘削ボーリングマシンなどで設置します。
もちろん、あくまでもM&A取引のデューデリジェンスなので観測井戸や仮観測井戸を設置できないケースもあります。
また、既存の調査報告書でも正確な地下水の流向が明記されていないケースもあります。
私の経験からすると、環境DDを実施する上で正確な地下水流向の情報が存在するケースは少ないです。
そんな場合は、地形から地下水流向を推定します。
一般的には「推定地下水流向」といわれています。
地下水は基本的に山から川や海へ流れる傾向にあります。つまり、標高が高いところから低いところに流れます。
もちろん、地下水ポテンシャルなどの影響を受けて、全ての地下水が上の図のように流れるわけではありませんが、私の経験上、調査対象地を俯瞰した場合、上の図のケース(山から川や海へ、標高が高い場所から低い場所へ)が圧倒的に多いです。
もらい汚染の可能性が高いと評価された場合は?
仮に推定地下水流向の上流側(例えば、調査対象地より標高が高い場所)で化学物質の漏洩事故が発生した場合、調査対象地が推定地下水流向の下流側(地下水が流れる方向)に位置するともらい汚染の可能性が高くなります。
つまり、地下水を介して汚染地下水が調査対象地の敷地内に流入し、土壌汚染や地下水汚染の引き起こす可能性があるということです。
仮にもらい汚染の可能性が高いと評価されたケースでは、評価の精度を高める為にどのようなことを行えばよいのか気になりますよね。
この点を少し書いていきます。
他の土地から調査対象地へ汚染地下水が流入しているか否かを確認するには、推定地下水流向上流側の敷地境界周辺で地下水を分析し、評価することが最も有効な検証方法です。
この検証の際に、漏洩した物質の項目や濃度が明確になっていると、より効率的に検証することができます。
読者の方は理解されていると思いますが、推定地下水流向上流側の敷地境界周辺で地下水を採水する理由は、仮に調査対象地で何かしらの漏洩事故が発生していたとしても、その漏洩物質が地下水の流れを逆行して
上流側に拡散するとは基本的には考えられないからです。
つまり、調査対象地の推定地下水流向上流側は、もらい汚染していなければ基本的には汚染がないということになります。
敷地境界付近での地下水採取は、1地点のみだけではなく、複数地点で採取することが望ましいです。
以下の図に基本的なことを整理してみました。
ここで気になるのが、調査対象地と漏洩事故が発生した場所との距離関係ですね。
あなたは、調査対象地と漏洩事故が発生した場所の間にどのくらいの距離があれば、もらい汚染の可能性が低いと考えておられますか?
少し技術的な話になりますが、地下水の影響範囲は地盤を構成する土質の種類や地下水の量に影響を受けます。
なので、一概にどれぐらいの距離とは判断しずらいのが現状です。
国内の土壌汚染対策法のガイドラインでは、以下の記載があります。
抜粋しますので、詳細は以下のWebサイトから確認してみてください。
土壌環境センターのガイドラインが読めるページです。
「Appendix –1. 特定有害物質を含む地下水が到達し得る「一定の範囲 / 汚染地下水が到達する可能性が高い範囲」の考え方」で記載されている以下の条件などから影響範囲の目安が評価されています。
・地下水の実流速が23m / 年程度
・地下水汚染が発生してから100年程度
他にも細かな条件はあるものの、影響範囲の目安は以下のとおりと記載されています。
第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)の汚染地下水の影響範囲:
汚染源から地下水流向の下流側へ約 1,000m
六価クロムの汚染地下水の影響範囲:
汚染源から地下水流向の下流側へ約 500m
砒素、ふっ素、ほう素の汚染地下水の影響範囲:
汚染源から地下水流向の下流側へ約 250m
シアン、カドミウム、鉛、水銀、セレン、農薬類の汚染地下水の影響範囲:
汚染源から地下水流向の下流側へ約 80m
揮発性有機化合物が汚染物質だった場合、かなりの範囲のもらい汚染の可能性を疑う必要がありますね。
ただ、上記の目安はあくまでも目安です。色々な条件が設定されて目安が算出されています。
なので、私の経験上の影響範囲を書いておきます。
揮発性有機化合物や準揮発性化合物の場合は約500m であれば、もらい汚染の可能性に関して、デスクトップ上で詳細な情報を収集すべきです。
実際に観測井戸を設置して、地下水の分析を検討する要検討距離は約50mです。
石油製品の場合は約150m で、デスクトップ上で詳細な情報を収集し、距離が10mであれば、地下水分析を検討します。
その他の物質は、約150m でデスクトップ上で詳細な情報を収集し、距離が30mであれば、地下水分析を検討します。
上記はあくまでも私の経験の話なので、実際の環境デューデリジェンスでもらい汚染の可能性が高いと判断された場合は、環境コンサルタント会社と協議してください。
その際に、この記事の内容が役立てば幸いです。
また、土壌汚染対策法では地下水汚染の流出に関してガイドラインを作成しています。以下の記事を参照ください。
特定有害物質を含む地下水が到達し得る『一定の範囲』の考え方(Appendix-1)の解説
平成31年に環境省が改正した土壌汚染対策法の概要(地下水汚染が到達し得る距離の計算ツール)
最後まで記事を読んで頂き有難う御座いました。