こんなことを書いてます
環境DDの基本的な業務内容と評価の精度について
本専門サイトの他の記事にも書いていますが、環境デューデリジェンスの業務内容は、M&A取引のプロセスや条件、買い手企業の企業方針によって異なります。
しかし、一般的に実施されている環境デューデリジェンスの業務内容から著しく変更になるようなケースはほとんどありません。
国内環境デューデリジェンス案件でも海外環境デューデリジェンス案件でも、基本的にはフェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査やフェ-ズ 2環境サイトアセスメント調査が段階的に実施されます。
フェーズという単語に1と2の数字が使用されていますが、この数字が意味するのは「調査のステップ」です。
他の物事の手順と同じで1が終わった後に2が始まります。
したがって、フェーズ2環境サイトアセスメント調査の後にフェーズ1環境サイトアセスメント調査が実施されるということはありません。
ちなみにフェ-ズ 1 調査とフェ-ズ 2 調査を音読するとフェーズ ワン 環境サイトアセスメント調査、フェーズ ツー 環境サイトアセスメント調査となります。
上記の記事で書いているとおり、国内環境デューデリジェンス案件でも海外環境デューデリジェンス案件でも、環境デューデリジェンスの重要項目として土壌・地下水汚染問題の把握が設定される傾向にあります。
理由としては、以下の点が考えられます。
🔸土壌・地下水汚染は、見ることができない地下に存在しており、関連資料のレビューのみでは特定できないこと。
🔸土壌・地下水汚染の浄化費用が高額であること。
🔸敷地外への地下水汚染が拡散すると近隣住民からの訴訟問題や風評被害に発展すること。
つまり、土壌・地下水汚染問題は、発覚すると企業経営に大きな影響を与えると企業の経営陣に考えらえているということになります。
この土壌・地下水汚染問題を環境デューデリジェンスで明確にする為に、フェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査が実施されます。
では、一般的な環境DDの業務内容であるフェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査の大きな違いを整理していきます。
フェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査の大きな違い
フェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査の概要を整理すると以下のようになります。
ちなみに英語の場合は、Phase I ESAとかPhase II ESAと書かれることがあります。ESAはEnvironmental Site Assessment の略です
図の内容のとおり、現地調査期間も違えば、主要タスクも異なります。
簡易な説明になってしまいますが、フェーズ2は土壌や地下水を実際に採取して、分析をするステップになります。
日本での名称だと、フェーズ1環境サイトアセスメント調査が「地歴調査」や「資料等調査」です。フェーズ2環境サイトアセスメント調査が「土壌汚染状況調査」や「土壌汚染概況調査」です。
フェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査を実施することによって、評価できることは以下のとおりです。
🔹フェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査では、土壌汚染のおそれなどの特定を行い、特定された「おそれ」に対して定性的な評価を行います。
つまり、潜在的な土壌汚染の可能性があるか否かの評価です。
🔹フェーズ 2環境サイトアセスメント調査では土壌試料採取を実施し、分析値と基準値を比較することで、汚染の有無に関して定量的な評価を行います。
つまり、汚染があるか無いかの評価です。
ちなみにフェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査では、「潜在的な土壌汚染の可能性がある」と評価されていても、フェーズ 2環境サイトアセスメント調査の結果、分析値が基準値を超過しない程度の濃度であったことから「汚染がない」という評価になることもあります。
ここまでの説明で少し専門的な表現が文章に含まれているので、更に2つの調査を整理していきます。そして、フェ-ズ 0.5 調査という項目も付け加えてみます。
フェ-ズ 0.5 調査に関しては、今後、詳細な記事を書いていくつもりです。
この記事で簡単に説明すると、フェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査から現地調査を取り除いた業務内容になります。つまり、関連資料のレビューのみの業務です。
以下の3つの調査を完結に整理してみました
フェーズ1環境サイトアセスメント調査とフェーズ2環境サイトアセスメント調査の評価精度の違い
読者の方(あなた)なら既にお気づきだと思いますが、ここまで説明してきたとおり、フェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査とフェ-ズ 2環境サイトアセスメント調査では、業務内容が異なることから必然的に調査期間と調査結果に伴う評価の精度が異なります。
潜在的な土壌・地下水汚染の実態を把握するという目的においては、やはりフェ-ズ 2環境サイトアセスメント調査の実施が不可欠です。
この点を環境デューデリジェンスを委託する企業の環境DD担当者は理解しておかなければなりません。
フェーズ0.5調査やフェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査のみでは結論を出すことができないことがあるということです。
私の経験でも、多くの環境デューデリジェンス業務でフェ-ズ 1環境サイトアセスメント調査を実施した後にフェ-ズ 2環境サイトアセスメント調査に進むかを悩んだ案件がたくさんあります。
なぜ、悩むのか?
それはM&A取引において時間的な制限や売り手企業による制限があるからです。
誰しもが環境デューデリジェンスを担当するなら徹底的に調査をしたいと考えます。
ただ、時間的にも費用的にも困難なことは読者の方なら想像できると思います。
しかし、あなたはこう考えてください。これこそが“環境デューデリジェンス”です。
さて、先ほど書いた費用面や時間面のことを図にしてみました
過去の記事を含めここまで読んで頂ければ、「環境デューデリジェンスなんで始めて聞いたよ。」と言っていあなたでも、なんとなくですが環境デューデリジェンスはこういうものかとイメージして頂けたかと思います。
環境デューデリジェンスに関してとても重要なこと
この記事の最後に私の経験上、環境デューデリジェンスに関してとても重要なことを書いておきます。
限られたDD期間や予算で実施される環境デューデリジェンスでは、すべての環境に関するリスクを完全に把握することには限界があります。
現在(2018年)における土壌汚染調査でも技術的な限界があり、対象地の土壌汚染の状況を100%把握することは困難です。
買い手企業に有り余る予算と長期間なDD期間があれば別の話かもしれませんが…..(笑)。
そうなんです。
限られた条件 (調査期間や予算など) の中で効果的な環境デューデリジェンスを実施するには、まずM&A取引における買収の判断等に、どの程度の環境に関するリスクの評価が必要になるのかを検討することが重要となります。
環境デューデリジェンスを実施される企業の環境DD担当者の方は必ず上記の点を検討してください。
そして、フィナンシャル・アドバイザー(FA)や環境コンサルタント会社は、企業の環境DD担当者がより効果的な環境デューデリジェンスが実施できるようにサポートしてください。
長い文章を読んで頂きありがとうございました。