こんなことを書いてます
改正土壌汚染対策法の地歴調査に関する変更点の概要を環境DDの観点で調べてみた結果
環境省は平成30年4月1日に改正土壌汚染対策法の第1段階施行を実施しました。そして、平成31年4月1日に改正土壌汚染対策法の第2段階施行を実施します。
土壌汚染対策法に準拠した土壌汚染問題に関する土地の評価は、日本国内における環境デューデリジェンスのベースとなる評価方法の1つと言えます。
したがって、その土壌汚染対策法が環境省により改正させるのであれば、その概要を企業の環境DD担当者や環境デューデリジェンスを実施する環境コンサルタント会社は理解しておく必要があります。
少なくとも改正の概要は把握しておかなければなりません。
私もその1人なので、この記事では平成31年の改正土壌汚染対策法の概要を少し勉強してみたいと思います。
私が把握している改正内容は数多くあるので、私がわかりやすいところから順番に勉強してみようと思います。
前回は、特定有害物質に注目して平成31年度の改正土壌汚染対策法の概要を整理してみました。
今回は地歴調査に関連する土壌汚染対策法の改正です。
ちなみに環境省による改正土壌汚染対策法の詳細な周知は、以下のサイトを参照下さい。
私は特に以下の通知を読み込んでみました。
土壌汚染対策法の一部を改正する法律による改正後の土壌汚染対策法の施行について(平成31年3月1日付け環水大土発第1903015号 環境省水・大気環境局長通知)
第4条調査の土地の形質変更届と併せた調査結果の報告に関する改正
実はこの改正は環境省により平成30年4月1日に改正土壌汚染対策法の第1段階として施行されています。
ただ、私の中で再確認したい内容だったのでこの記事で書くことにしました。
土壌汚染対策法の法律を確認しました。
土壌汚染対策法 第4条2項に以下の記載がありました。
前項に規定する者は、環境省令で定めるところにより、当該土地の所有者等の全員の同意を得て、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、前条第一項の環境大臣又は都道府県知事が指定する者(以下「指定調査機関」という。)に同項の環境省令で定める方法により調査させて、前項の規定による土地の形質の変更の届出に併せて、その結果を都道府県知事に提出することができる。
平成29年3月31日までは、こんな流れだったのが変わるということです。
1) 土地の形質変更届出
2) 都道府県等による汚染のおそれの判断
3) 調査命令の発出
4) 調査結果の報告
改正後は、土地の形質変更を実施する者が先行して土壌汚染状況調査を実施し、土地の形質変更届出と併せて土壌汚染状況調査結果を都道府県等に提出することできるようになりました。
この改正により、土地の形質変更届出と併せて土壌汚染状況調査結果の提出がなされた場合で、かつ、調査方法や調査結果に不備がなかった場合は、土壌汚染対策法の第4条3項の命令の対象にはならないことになります。
土地の形質変更に関連するスケジュールを計画的に実施することができるということです。
汚染のおそれの区分の分類に関する改正
今までの大まかな汚染の区分は以下のとおりです。
土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地
特定有害物質又は特定有害物質を含む固体若しくは液体の埋設等を行っていた土地や、その使用等又は貯蔵等を行っていた施設の敷地からその用途が全く独立している状態が継続している土地を指す。
土地の用途としては、従業員の福利厚生目的等事業目的の達成以外のために利用している土地である。
具体的には、調査対象地の履歴を可能な限り過去に遡った結果、当初から、専ら次のような用途のみに利用されていた土地が該当する。
・ 山林、緩衝緑地、従業員用の居住施設や駐車場、グラウンド、体育館、未利用 地等
土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地
直接に特定有害物質又は特定有害物質を含む固体若しくは液体の使用等又貯蔵等を行っていた施設の敷地ではないが、当該敷地から、その用途が全く独立しているとはいえない土地を指す。
土地の用途としては、事業目的の達成のために利用している土地であって、特定有害物質又は特定有害物質を含む固体若しくは液体の埋設等、使用等又は貯蔵等を行う施設の敷地以外の土地である。
具体的には、当該施設の設置時から、専ら次のような用途のみに利用されていた土地で、直接に特定有害物質の埋設等、使用等又は貯蔵等をしていない土地が該当すると考えられる。
・ 事務所(就業中の従業員が出入りできるものに限る。)、作業場、資材置き場、倉庫、従業員用・作業車用通路、事業用の駐車場、中庭等の空き地(就業中の従業員が出入りできるものに限る。)、複数の工場棟を有する場合において有害物質使用特定施設と一連の生産プロセスを構成していない工場棟の敷地等
土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地(それ以外の土地)
土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地及び土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地でもない土地以外の土地は、土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地です。
・ 特定有害物質又は特定有害物質を含む固体若しくは液体の埋設等が行われた土地
・ 特定有害物質又は特定有害物質を含む固体若しくは液体の使用等又は貯蔵等を行っていた施設の敷地
・ 上記の施設を設置している土地、当該施設と繋がっている配管、当該施設と配管で繋がっている施設及びその建物、当該施設及びその関連施設の配水管及び排水処理施設
今回の環境省による平成31年4月1日の改正土壌汚染対策法の改正では、水質汚濁防止法に基づく地下浸透防止措置が適切に行われている土地の扱いが追加されています。
どのような内容が追加されているのかという点ですが、「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」に該当する土地の例が増えることになります。
どのような土地かというと…..。
平成24年6月以降に設置された水質汚濁防止法 第12条の4に定められた地下浸透防止の為の構造等の基準に適合する有害物質使用特定施設がある場合で、水質汚濁防止法 第14条第5項の規程に定められている定期的な点検及び記録の保管が適切に実施されていることにより特定有害物質が地下に浸透したおそれがないと確認された場所。
参照した水質汚濁防止法の各条項は以下のとおりです。
(有害物質使用特定施設等に係る構造基準等の遵守義務)
第十二条の四
有害物質使用特定施設を設置している者(当該有害物質使用特定施設に係る特定事業場から特定地下浸透水を浸透させる者を除く。第十三条の三及び第十四条第五項において同じ。)又は有害物質貯蔵指定施設を設置している者は、当該有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設について、有害物質を含む水の地下への浸透の防止のための構造、設備及び使用の方法に関する基準として環境省令で定める基準を遵守しなければならない。
(排出水の汚染状態の測定等)
第十四条
5 有害物質使用特定施設を設置している者又は有害物質貯蔵指定施設を設置している者は、当該有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設について、環境省令で定めるところにより、定期に点検し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。
平成31年3月31日までは、上記の条件を満たしていても土所汚染の発生のリスクが考慮され「土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地」と評価されていたので、大きな改正の変更点といえます。
変更点を整理した際に記載していますが、平成24年6月以降に設置された水質汚濁防止法 第12条の4に定められた地下浸透防止の為の構造等の基準に適合する有害物質使用特定施設であり、水質汚濁防止法 第14条第5項の規程に定められている定期的な点検及び記録の保管が適切に実施されていることにより特定有害物質が地下に浸透したおそれがないと確認された施設が対象となります。
では、有害物質使用特定施設のどこまでの範囲が「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」に該当するのかという点ですが、以下のようになるようです。
「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」の範囲は、有害物質使用特定施設の防液堤防等によって特定有害物質の地下への浸透防止措置がされている場所のみです。
なので、調査の対象となる敷地全体の試料採取等が不要となるわけではないようです。
少し複雑なので、図にしてみました。
まずは、有害物質使用特定施設の防液堤防等によって特定有害物質の地下への浸透防止措置がされている場所を整理してみました。
では、害物質使用特定施設に付属する配管等はどう考えられるのかという疑問が私には生まれたので、知り合いの環境コンサルタント会社に聞いてみました。
彼が言うには、配管等の範囲も水質汚濁防止法施行規則 第8条の3から第8条の7までの条項を満たしていれば、「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」の範囲に該当するとのことでした。
次に汚染のおそれの区分を図で整理してみました。
土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地:青色
土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地:黄色
土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地:赤色
つまり、土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地が存在しない土壌汚染状況調査が成り立つということです。
なんか不思議な感覚ですね。
一方で、この汚染の区分の改正は、本来あるべき土壌環境や地下水環境への汚染の防止としての本質的な考え方のかもしれません。
地下水汚染の到達距離の算出に関する改正
この改正については、土壌汚染対策法の地歴調査に直接的に関連するものではありません。
ただし、環境デューデリジェンスのフェーズ1調査や自主的に実施される土壌及び地下水汚染に関する地歴調査では「もらい汚染」という観点で考慮されるべきなので、この記事を通して調べてみることにしました。
環境デューデリジェンスでは、推定地下水流向上流側や調査対象地に隣接する工場からの地下水汚染を介した「もらい汚染」が評価されます。
第三者によって汚染させられた土地を購入するのは、買い手企業にとってリスクのなにものでもありません。
もし、M&A取引の環境DD期間でもらい汚染の可能性が発覚した場合は、M&A取引のクロージングまでに明確にしておくべきです。
もらい汚染って何?となっている読者の方は、以下の記事を参照ください。
日本国内の環境DDにおいても一般的に土壌汚染対策法の土壌汚染調査のガイドラインに記載されたいた「地下水汚染が到達し得る一定の距離の目安」がもらい汚染を評価する基本的なデータの1つとなっていたのですが、今回の改正で新たなデータがもらい汚染の評価に使用することができそうです。
「土壌汚染対策法の一部を改正する法律による改正後の土壌汚染対策法の施行について」には以下の記載がありました。
「地下水汚染が生じているとすれば地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる区域」とは、特定有害物質を含む地下水が到達し得る範囲を指し、特定有害物質の種類により、また、その場所における地下水の流向・流速等に関する諸条件により大きく異なるものである。
この地下水汚染が到達する具体的な距離については、地層等の条件により大きく異なるため個々の事例ごとに地下水の流向・流速等や地下水質の測定結果に基づき設定されることが望ましい。
そのため、環境省において、場所ごとの条件に応じて地下水汚染が到達する可能性のある距離(以下「到達距離」という。)を計算するためのツールを作成し、環境省ホームページに公開することとした。
当該ツールは、特定有害物質の種類、土質及び地形情報(動水勾配)の条件を入力することで到達距離を算出するものである。
具体的な使用手順については、併せて環境省ホームページに公開するマニュアルのとおりであるが、条件の入力においては、土質が不明な場合は透水係数が最も大きい「礫」を選択するなどして、過小に距離を算出することのないようにされたい。
なお、旧施行通知においては、一般的な地下水の実流速の下で地下水汚染が到達すると考えられる距離として、以下の表に示す一般値を示していたところである。
土壌汚染対策法の土壌汚染調査のガイドラインに記載されている特定有害物質の種類別の地下水汚染到達距離の一般値は以下のとおりです。
第一種特定有害物質:概ね1,000m
六価クロム:概ね 500m
砒素、ふっ素及びほう素:概ね250m
シアン、カドミウム、鉛、水銀及びセレンならびに第三種特定有害物質:概ね80m
また、「土壌汚染対策法の一部を改正する法律による改正後の土壌汚染対策法の施行について」には以下の記載もありました。
ここで、当該ツールによって算出される到達距離が汚染が到達するおそれのある距離を示すものであるものの、一般値が地下水汚染の到達距離の実例を踏まえて設定されたものであることを踏まえれば、当該ツールにより算出される到達距離が一般値を超える場合には、一般値を参考にして判断することが適当と考えられる。
また、地下水汚染の到達する可能性が高い範囲に関する距離以外の条件としては、原則として不圧地下水の主流動方向の左右それぞれ90度(全体で180度(当該地域が一定の勾配を持つこと等から地下水の主流動方向が大きく変化することがないと認められる場合には、左右それぞれ60度(全体で120度)))の範囲であること、水理基盤となる山地等及び一定条件を満たした河川等を越えないことが挙げられる。
つまり、記載されている内容を整理してみると次のとおりになりました。
・地下水汚染の到達距離の算出は原則として個々の事例ごとに設定すること
・環境省が地下水汚染の到達距離の計算ツールを環境省のHPで公開すること
・計算ツールにより算出される到達距離が一般値を超える場合には、一般値を参考にして判断すること
環境省のHPで地下水汚染の到達距離の計算ツールを探してみたのですが、平成31年3月19日時点ではまだ公表されていませんでした。
環境デューデリジェンスを日本国内で実施する際は、有効活用できそうです。
指定解除台帳の調製に関する改正
この改正で、国内における環境デューデリジェンスのフェーズ1調査で、評価の為に有効に扱える情報が増える可能性増えるということになります。
今までは、都道府県知事は要措置区域等を解除された土地について、台帳から当該区域を削除していましたが、平成31年4月1日からは台帳から削除せず、各々の措置区域に関して解除台帳を調製することになっています。
そして、環境コンサルタント会社等はこの解除台帳を閲覧することができます。
指定台帳または解除台帳にも以下の内容が記載されることになります。
◆要措置区域等の指定に係る土壌汚染状況調査の土壌その他の試料の分析結果
◆詳細調査の分析結果
◆深度限定により試料採取等を行わなかった土壌について汚染の除去等の措置を講じた場合又は土地の形質の変更をした場合にあっては、土壌汚染状況調査に準じた方法により、汚染状態を明らかにした調査の土壌その他の試料の分析結果
◆要措置区域等に土壌を搬入した場合は、搬入土の調査の分析結果及びその他のの搬入された土壌の事項
◆臨海部特例区域の施行管理方針
ここまでも情報が記載されるのであれば、国内の環境デューデリジェンスのフェーズ1調査で有益な情報になると考えられます。
地歴調査に関連する土壌汚染対策法の改正の概要のまとめ
今のところ私が把握している改正土壌汚染対策法の内容だと地歴調査の変更等に関する改正は1つあることになります。
第4条調査の土地の形質変更届と併せた調査結果の報告に関する改正は環境省により平成30年4月1日に改正土壌汚染対策法の第1段階として施行されていますし、地下水汚染の到達距離の算出に関する改正は、地歴調査というよりは土壌汚染対策法における土地の要措置区域の指定に関連する改正になります。
解錠台帳もどちらかというと区域指定に関することです。
今回は環境デューデリジェンスの観点で地下水汚染の到達距離の評価と解除台帳に関することを記載しているので、読者の方は、留意願います。
そして、1つの変更が、汚染のおそれの分類に関する改正です。
平成24年6月以降に設置された水質汚濁防止法 第12条の4に定められた地下浸透防止の為の構造等の基準に適合する有害物質使用特定施設であり、水質汚濁防止法 第14条第5項の規程に定められている定期的な点検及び記録の保管が適切に実施されていることにより特定有害物質が地下に浸透したおそれがないと確認された土地は、「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」に該当することになります。
この変更は、環境DDの結果に影響を与える可能性がある改正だと言えます。
したがって、日本国内で環境デューデリジェンスを土壌汚染対策法に基づいて実施する場合には、把握しておくべき情報です。
土壌汚染対策法を読み解くのは、苦労しますが企業の環境DDの担当者の方も環境コンサルタント会社の方も頑張って読み込んでみて下さい。
最後になりますが、私は法律の専門家ではありません。したがって、法律を誤って解釈している可能性があります。
詳細な情報を把握したいという読者の方には、法律を読んでダブルチェックするか、環境コンサルタント会社で土壌汚染調査技術管理者に質問することを推奨します。
最後まで記事を読んで頂き有難う御座います!!