土壌地下水汚染の基準

油汚染の土壌に関する基準

油汚染対策の土壌基準

 

私の経験上、日本国内に油による土壌汚染はたくさん存在します。

特にガソリンスタンドや重油等を大量に取り扱う工場の敷地内には油による土壌汚染が存在する可能性があります。

 

あなたは既にご存じだと思いますが、日本国内における土壌汚染問題に関しては土壌汚染対策法が制定されています。

 

そして、土壌汚染対策法には特定有害物質が定められていますが、油分は特定有害物質ではありません。

 

正確に表現するとベンゼンや鉛及びその化合物を含まない油による土壌汚染は、土壌汚染対策法の適用外になります。

 

つまり、土壌に含有する土壌には土壌溶出量基準や土壌含有量基準が存在しないということです。

 

では、どのように油汚染の土壌を評価するのでしょうか?

 

日本国内では、環境省が平成18年3月に以下のガイドラインを公表しています。

 

 

 

 

上記の油汚染ガイドラインは、日ごろ油汚染等に触れることがない多くの事業者の方向けに作成されており、以下の問題や技術を紹介することで油汚染をどのように考え、どのような調査や対策を行えばよいかを検討する際の参考情報として整理されています。

具体的には、油汚染の基本的な考え方から状況把握調査、対策等の説明が記載されています。

 

🔷 油そのもの、油臭や油膜といった問題

 

🔷 土壌汚染の対策技術などに関する知識や技術情報

 

🔷 油漏れ等で油を含む土ができ、その場所が油臭いとか敷地内の井戸水に油膜がある時の問題

 

 

さて、基準という観点に話を戻すと、油汚染のガイドラインが対象とする「油汚染問題」は、「鉱油類を含む土壌に起因して、その土壌が存在する土地(その土地にある井戸の水や、池・水路等の水を含む。以下同じ。)において、その土地又はその周辺の土地を使用している又は使用しようとする者に油臭や油膜による生活環境保全上の支障を生じさせている
こと」をいうと定義されています。

 

つまり、油臭および油膜の有無が一つの判断基準になるということです。

 

国内の油汚染の評価方法は以下に示すとおりです。

 

 

 

国内の油汚染の評価方法

 

油汚染対策ガイドラインでは、油汚染であるか否かの確認方法が以下のように記載されています。

 

油汚染問題であるか否かの確認と油汚染問題の程度の把握

様々な状態の油が生じさせている油汚染問題を総体としてとらえられるようにするためには人間の感覚によらざるをえない。

 

 このため、油含有土壌に起因する油臭や油膜の把握は、嗅覚や視覚といった人の感覚をおおもととするとともに、それらを補完し関係者の共通の理解を得るための手段としてTPH濃度を用いることとする。

 

 状況把握調査においては、(ア)油汚染問題の原因が鉱油類かどうかの確認、(イ)油含有土壌の存在範囲の把握という二つの場面でTPH濃度を使用することを想定している。

 

技術資料に示すように、TPHの試験法としては様々な方法があり、それぞれに特徴がある。③(ア)については、鉱油類のうち、油臭や油膜の発生に関係するガソリン相当分から重油相当分までをほぼカバーできる範囲を対象として、GC-FID法によるTPH試験で得られるクロマトグラムの形状、及びTPH画分毎の濃度組成による推定で行うとよい。

 

③(イ)については、(ア)の確認を通じて得られた鉱油類の情報や調査地において使用した鉱油類に関する情報を参考としつつ、現場の状況に適したTPH試験法を選択して用いるとよい。

 

どの試験法を用いてTPH濃度を得たかについては、その後の状況把握調査結果の整理、解析に不可欠であり、また対策段階で追加的な対策調査を行う場合にも必要な情報であるので、記録して保存する。

 

 

土地利用の目的や方法に応じた対応

油臭や油膜は人の感覚で捉えられるものであるから、油汚染問題がある土地の土壌とその土地を使用する人との位置関係や、土地の使用方法によって、地表面での油臭や油膜が問題となる程度が異なってくる。

 

例えば、裸地で使用することを前提とし、子供が土で遊ぶことを想定しなければならない児童公園等では、地表に寝転んでも油臭がしないような状態を達成し、それを長期的に維持管理することが対策目標として設定されることが考えられる。

 

また、公園等のように公の管理がなされているわけではなく、追加的な対策が必要となっても対応が難しい戸建て住宅の用地として、油汚染問題がある土地を売却することを予定している場合には、売却後に掘削などの形質変更が行われても油臭や油膜が問題とならないように、油含有土壌を掘削して除去したり浄化したりすることが対策目標として設定されることが考えられる。

 

一方で、都心部の事務所や駐車場用地のように、ビルを建てたり、コンクリートで覆って用いる土地の利用方法であれば、油含有土壌があっても土地を使用する人が油臭や油膜を感じないという場合もある。

 

このように、同じ状態の油が同程度含まれている土壌であっても、土地の利用方法によって油臭や油膜がどの程度問題になるかどうかは異なる。

 

このため、土地利用の目的や方法によって対策方法を適切に選定することが必要となる。

 

井戸水等の油臭や油膜

調査地のある敷地内の井戸水や、修景用の池の水や、敷地内の水路を流れる水に油臭や油膜があることは油汚染問題発見の契機であり、対策の目標として、それらの井戸水等の油臭や油膜を除去することや、可能であれば井戸等を廃止することが検討されることが想定される。

 

 また、鉱油類が地下水によって周辺に拡散しないようにすることが対策の目標になることも考えられる。

 

一方、地下水があってもそれが井戸水等として利用されていない土地のモニタリング用井戸で油臭や油膜が発見された場合には、地表の油臭や油膜などの他の油汚染問題が生じたり、地下水中の鉱油類が公共用水域を汚染するおそれがあるような場合は別として、特別の対策を講じる必要がないことが想定される。

 

地表や井戸水等には油汚染問題がなかったのに、新たな土地利用を行うために建物の基礎工事を行っている際に油臭や油膜が発見されることがある。このようなときは、次の工事工程で、例えばコンクリート床版が施工されたり掘削された場所が埋戻されることにより、油臭が遮断され油膜も遮蔽されるならば、敷地内で井戸水等の使用がなく、周辺に影響を及ぼすおそれも考えられない場合には、別途特別の対策を講ずる必要がないことになる。

 

つまり、油汚染が鉱油類であるということが前提で、油汚染に関する土壌の評価は、油臭、油膜があるか無いか。

そして、Total Petroleum Hydrocarbon(TPH:全石油系炭化水素)の分析結果による濃度ということです。

 

油汚染に関する地下水の評価は、油臭、油膜があるかどうかということです。

 

土壌の油臭に関しては、一定条件下で油臭を感じるか否かがポイントになってきます。

イメージを図に整理してみました。

 

 

たしかに、公園と一般的に大人が利用する場所では、油臭を感じる地面からの高さはことなりますよね。

 

次に土壌の油膜に関して、油膜がある例を図にしてみました。

 

 

これだけ虹色の油膜が確認できれば、油膜ありということになります。

 

油汚染対策ガイドラインに記載されているとおり、油臭と油膜の判断には個人差があります。

したがって、油汚染対策ガイドラインには、油臭及び油膜の測定方法が記載されています。

 

土壌の油臭の測定方法

土壌 50g を 500ml 容ガラス瓶に入れ、蓋をして約 25℃で 30 分間放置した後、蓋を外して直ちに土壌から発生する臭いを嗅ぎ、臭気の有無及び油種とその程度を試験する。

なお、土壌の質量及びガラス瓶の容積については、調査地として統一するのであれば変更してもよい。

ただし、その場合には、土壌の質量及びガラス瓶の容量をどう選択するかによって測定結果として得られる油臭の程度が変わってくることに留意して測定結果を評価することが必要である。

また、この測定方法で得られた結果は、評価対象とする現地での油臭の有無を試験する場合に比べ、密閉された空間に臭気成分が閉じ込められた状態になるため、油臭の程度は高い傾向を示すことに留意する必要がある。

 

地下水等を含む水の油臭の測定方法

試料水 100ml を共栓三角フラスコ 300ml に入れ、蓋をして約 25℃で 30 分間放置した後、フラスコを揺すり動かしながら栓をとり、直ちに臭気の有無及び油種とその程度を試験する。

なお、試料水の体積及び共栓三角フラスコの容積については、調査地として統一するのであれば変更してもよい。

ただし、その場合には、試料水の体積及び共栓三角フラスコの容積をどう選択するかによって測定結果として得られる油臭の程度が変わってくることに留意して測定結果を評価することが必要である。

 

油汚染の油臭の程度の表示例

 

 

上記の表が作業上での土壌及び地下水等の水の油臭ありなしの目安になります。

 

 

 

油膜の測定法は以下のとおりです。

ビーカー法とシャーレ法が油汚染対策のガイドラインに記載されていますが、この記事では私の経験上、一般的なシャーレ法を説明していきます。

 

土壌の油膜の測定方法

シャーレ(直径 94mm、高さ 20mm)に蒸留水を 50ml 入れ、シャーレの下に黒い紙を敷く。蒸留水の中に薬さじ 1 杯分(約5g-wet)の土壌を静かに入れ、直後の液面を目視で観察する。

 

油汚染の油膜の発生状況

 

 

地下水等を含む水の油膜の測定方法

シャーレ(直径 94mm、高さ 20mm)に水を静かに 50ml 量り入れ、シャーレの下に黒い紙を敷く。明るい場所で液面を目視で観察する。

 

油汚染の油膜の判定

 

 

 

最終的にはどのように油臭及び油膜を判断するのかは、環境コンサルタント会社と協議することを推奨します。

私の経験では、環境コンサルタント会社は分析会社に油臭及び油膜の判定を依頼していました。

 

さて、最後にTPHの濃度に関して書いていきます。

TPHの濃度に関しては、油汚染対策ガイドラインで以下のように記載されています。

 

鉱油類には種々の種類があり、油汚染問題を生じさせている油の状態も様々であり、油の濃度が同じでも油臭や油膜の状況が異なるため、油含有土壌に起因する油臭や油膜の把握は、嗅覚や視覚といった人の感覚によることを基本とし、それらを補完するものとして、関係者の共通の理解を得るための手段としてTPH濃度を用いる。

 

つまり、TPHの濃度は補完データということです。ただ、一方で定量的に油汚染を把握できることから、評価という観点では欠かせない項目です。

 

油汚染対策ガイドラインでは「対策検討範囲設定濃度」として以下の記載があります。

 

「対策検討範囲設定濃度」は、「地表の油臭や油膜が感覚的に認められなかった場所で測った土壌TPH濃度のうち最も高い濃度」である。ただし、地表の油臭を感じるかどうかは気象条件によって異なりがちなので、油臭がないと思った場所で測った土壌TPH濃度(「無臭TPH」という。)の最大値が、油臭があると思った場所で測った土壌TPH濃度(「有臭TPH」という。)の最小値よりも大きいという結果となることもある。

 

なかなか、難しい文章ですよね。私は、なかなか理解することができませんでした(笑)。

ただ、知り合いの環境コンサルタント会社はTPH濃度 1,000mg/kgを1つの評価の目安にしています。

理由を聞いたことがあるのですが、ガソリンスタンドなどにおける土壌汚染調査において石油産業業界が参照としている濃度数値ということでした。

 

私も多くの油汚染に関する報告書を拝見したことがありますが、TPH濃度の判断基準で900~1,000mg/kgが多かったのを記憶しています。

このTPH濃度1,000mg/kgという数値もあなたが、実際の環境デューデリジェンス業務においてTPHの分析を環境コンサルタント会社との協議する際の参考情報になれば幸いです。

 

国内の油汚染対策に関しては、以下の記事を参照下さい。

油種の判定や調査の土壌試料採取深度に関する情報が整理されています。

 

 

油汚染土壌と国内の環境デューデリジェンスについて油汚染土壌と国内のM&A環境デューデリジェンスについて 土壌汚染には、実は色々と種類があります。 どういうこと?...

油汚染土壌と国内の環境デューデリジェンスについて

 

 

 

海外(アメリカ)での油汚染  土壌の考え方について

 

私の経験上、アメリカ(米国)は油の土壌汚染の対策や法律の施行が進んでいる国のひとつであるという印象があります。

その要因としては、石油のメジャー会社が多く存在し、石油産業界においてもガソリンスタンドや製油場での土壌汚染調査の実施が促進されてきたという歴史が考えられます。

 

日本国内のガソリンスタンドでも、地下タンクなどからの油の漏洩に関する土壌調査が多く実施されていたと聞いたことがありますが、その調査方法や評価方法の基礎はアメリカ(米国)からの輸入されたプログラムであるということを知り合いの環境コンサルタント会社から聞いたことがあります。

また、アメリカ(米国)の多くの州法でも何ガロン以上の油が敷地内の土壌や表面水などに漏洩した場合に、消防や行政に直ちに通知し適切且つ迅速な対応を行うことという条項が設けられています。

 

アメリカ(米国)には油田があるというのも1つのキーポイントなのかもしれません。

油田における作業において、油の漏洩防止は重要事項ですからね。

折角なので、他国と油汚染の関心度合いを比較できるように、油に関する物質の基準値なども記載しておきます。

 

アメリカ(米国)における油汚染に関する評価では、US EPAのRegional Screening Levelで以下の物質と基準が参考とされています。

ただ、州法において基準が存在する場合は、州法の基準が優先されるケースが多いです。

 

一点、注意です。

法令や基準値に関する情報は、リサーチ時点の情報です。

また、私の経験の引き出しから情報を捕捉しているので、詳細な情報は必ず読者の方が詳細を調べてみてください。

 

油汚染に関連する土壌の基準値は以下のとおりです。

 

Benzene5.1 mg/kg
Toluene4,700 mg/kg
Ethylbenzene25 mg/kg
Xylenes250 mg/kg
Lead800 mg/kg
TPH(Aliphatic Low)2,200 mg/kg
TPH(Aliphatic Medium)440 mg/kg
TPH(Aliphatic High)3,500,000 mg/kg
TPH(Aromatic Low)420 mg/kg
TPH(Aromatic Medium)560 mg/kg

 

土壌の数値は、M&A取引の環境デューデリジェンスを考慮して、Industrial soilを参照にしています。

 

ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの4つの物質は、各々の物質の頭文字を用いてBTEXと表現されます。

読者の方で、油汚染土壌調査を実施したことがある経験をお持ちの方は、BTEXという言葉を聞いたことがあると思います。

BTEXは主にガソリンによる油土壌汚染を評価する時に分析される項目ですが、初めて聞いたよ!という読者の方は必ず読者の方の環境デューデリジェンス勉強用ノートにメモしておいてください(笑)。

 

正直、これらの数値が高いの低いのかは微妙な判断ですよね。

私の個人的な感覚では、Total Petroleum Hydrocarbon(TPH:全石油系炭化水素)は寛容な基準値であると考えています。

ただし、分析方法自体が異なるので日本の業界基準の900~1,000mg/kg直接比較することはできません。

ただ、油汚染土壌や油汚染地下水を定量的に評価できる基準があるということは、アメリカ(米国)における環境デューデリジェンスを実施する際に、M&A取引のGo / No goなどを含む判断をする時にとても参考にある情報です。

 

あと1点、注意事項です。

アメリカでは油汚染土壌が存在したとしても、その油汚染土壌を浄化するか否かの判断は、リスクベースで考えられる傾向にあります。

つまり、上述の各々の基準値を超過していたからといって、直ちに浄化しなさいという措置が行政から出るということや法令上要求されているということは、また別の話になります。

 

 

他のオランダマレーシア台湾メキシコタイ中国に関する油汚染に関連する土壌基準は以下の記事を参照下さい。

また、各国のTPHの基準は必ず最新の基準値を確認してください。

 

 

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最後まで読んで頂きありがとうございました!

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