環境DDの雑学

土壌汚染調査の報告書の有効期限について

土壌汚染調査の報告書の有効期限について

 

複数の環境デューデリジェンス業務を経験していくと必ずどこかのタイミングで議論となるのが、ヴァーチャル・データルーム(VDR)上にアップロードされた土壌・地下水汚染調査報告書の信頼性です。

表現を変えると土壌・地下水汚染調査報告書の有効期限です。

 

環境デューデリジェンスでは、VDRへの情報開示資料依頼リスト(英語では、Information Request List:IRL)で必ず調査対象地で過去に実施された土壌・地下水汚染調査報告書がリストアップされます。

調査対象地で過去に実施された土壌・地下水汚染調査報告書に記載されている情報は、環境デューデリジェンスを進める中で重要な情報になるということは読者の方も安易に想像できると思います。

 

なぜなら、フェーズ1やフェーズ2の土壌・地下水汚染調査報告書には、基本的に以下のことが必ず記載されているからです。

 

フェーズ1調査の報告書の場合

🔶 調査対象地の操業内容

🔶 調査対象地の歴史的な背景

🔶 敷地内の地下水に関する情報

🔶 敷地内の土質に関する情報

🔶 化学物質の使用履歴

🔶 潜在的な土壌汚染や地下水汚染の有無 など

 

フェーズ2調査の報告書の場合

🔹 敷地内の土壌汚染の有無

🔹 敷地内の地盤の構造

🔹 土壌汚染や地下水汚染が存在すれば、その分布範囲や分布深度 など

 

これらの情報が一度に精査できるとなると、買い手企業は環境DDを進める上で時間を有効に利用して、効率的に環境デューデリジェンスを実施することができます。

 

ただ、上述したフェーズ1調査やフェーズ2調査の報告書が20年前に実施された報告書だったらどうでしょうか?

たしかに、報告書に記載されている一部の内容を考慮すると、調査対象地の基本的な情報を入手するという観点で有効な資料となりますが、現状の環境リスクを評価するという点では重要度が低くなってしまいます

 

20年前から現在までの20年間で、調査対象地内の施設や使用化学物質、操業内容などが変わっている可能性が非常に高いからです。

このように考えていくと、過去に実施された土壌・地下水汚染調査報告書の有効期限は何年??という議論になるということです。

 

一般的な環境デューデリジェンスでは、10年前の土壌・地下水汚染調査報告書や5年前の土壌・地下水汚染調査報告書がヴァーチャル・データルームにアップロードされることが多々あります。

逆に30日前の土壌・地下水汚染調査報告書がヴァーチャル・データルームにアップロードされることは、稀です。

売り手企業がSeller’s DDの観点でフェーズ1調査を実施している場合は、話が別です。

 

環境デューデリジェンスのSeller’s DDに関しては、以下の記事を参照ください。

 

立場の違いによる環境DDの種類と主な業務仕様について立場の違いによる環境DDの種類主な業務仕様とは? 読者の方(あなた)にとって環境デューデリジェンスってどんなイメージですか?...

 

 

茶ポール
茶ポール
なるほど。いくらVDRに土壌汚染調査報告書がアップロードされても、20年前の報告書やと…。
のみエコ
のみエコ
茶ポールさん、そうなんですよ。あくまでも基礎情報の収集にしか利用できないということになります。
茶ポール
茶ポール
そうやな。そうなると、何年前の報告書なら有効な報告書として考えていいのかっていう議論になるな。
のみエコ
のみエコ
そのとおりです。なので、今回の記事で書いてみることにしました。
茶ポール
茶ポール
ええやないか!

 

過去に実施された土壌・地下水汚染調査報告書の有効期限ってあるの?

 

まずは、国内の土壌汚染調査報告書に関して書いていこうと思います。

私がリサーチした結果や経験を考慮すると、土壌汚染対策法には報告書の有効期限という記載はありません

さらに、フェーズ2調査の土壌汚染報告書に添付される濃度計量証明書などにも有効期限はありません

 

つまり、国内においては土壌汚染調査報告書の有効期限に関して、言及されている公的な文章は存在しないということになります。

 

ただし、千葉県の「千葉県土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例の解釈によっては、少し違った観点で分析結果の有効期限が6ヶ月という情報を入手することができました。

しかし、この条例はあくまでも、土砂等の埋立て等に関する内容が定められている条例なので環境デューデリジェンスにおける土壌汚染調査報告書の取扱いとは、異なります。

 

存在しない土壌汚染調査報告書の有効期限に関して、議論することは困難ですね。

なので、海外のケースも調べてみることにしました。

 

茶ポール
茶ポール
日本の土壌汚染対策法には報告書の有効期限について言及なしか。
のみエコ
のみエコ
そうなんです。土壌汚染報告書は、調査をした日における記録ですからね。そもそも、有効期限を設けるのは少し変な感じがしますよね。
茶ポール
茶ポール
たしかにそうやな。でも、そうなると環境DDの時に5年前とか3年前の土壌調査報告書がVDRにアップロードされていたら、その報告書の内容をどう評価するか悩んでしまうな。
のみエコ
のみエコ
ですよね。

 

米国(アメリカ)における土壌汚染などの報告書の有効期限とは?

 

米国(アメリカ)のフェーズ1調査やフェーズ2調査は、基本的に規格設定機関のASTM (American Society for Testing and Materials) インターナショナルが発行している工業規格のASTM規格に基づいて実施されています。

 

今回はフェーズ1調査のASTM規格であるASTM E1527-13の内容を調べてみることにしました。

 

ASTM E1527-13の規格をGoogle翻訳を用いて読み進めていくと、4.6のセクションに以下の記載がありました。

 

Continued Viability of Environmental Site Assessment

 

直訳すると、環境サイトアセスメントの継続的な有効性です。

環境サイトアセスメントは、海外での土壌汚染調査という意味でも使用できます。フェーズ1環境サイトアセスメントは、国内での地歴調査と同じ意味です。

表現を変えて、解釈すれば土壌・地下水汚染調査報告書の有効期限です。

 

さらにASTM E1527-13の規格には以下のように記載されています。以下の文章は抜粋です。

 

An environmental site assessment meeting or exceeding this practice and completed less than 180 days prior to the date of acquisition of the property or (for transactions not involving an acquisition) the date of the intended transaction is presumed to be valid.

If within this period the assessment will be used by a user different than the user for whom the assessment was originally prepared, the subsequent user must also satisfy the User’s Responsibilities.

An environmental site assessment meeting or exceeding this practice and for which the information was collected or updated within one year prior to the date of acquisition of the property or (for transactions not involving an acquisition) the date of the intended transaction may be used provided that the following components of the inquiries were conducted or updated within 180 days of the date of purchase or the date of the intended transaction: 

(i) interviews with owners, operators, and occupants;

(ii) searches for recorded environmental cleanup liens;

(iii) reviews of federal, tribal, state, and local government records;

(iv) visual inspections of the property and of adjoining properties; and

(v) the declaration by the environmental professional responsible for the assessment or update.

 

私は英語ができないのでGoogle翻訳をフルに活用して、理解してみました。

私の理解では、ASTM1527-13の規格における有効期限は以下のとおりです。

 

🔶 有効期限は土地を取得する日の180日以内

 

🔶 報告書を作成してから180日以内に報告書の内容(例えば、インタビュー内容や現地視察結果など)を更新すれば、引き続き報告書の信頼性を確保できる。

 

🔶 報告書を作成してから1年が経過すると、その報告書の有効期限は切れる。

 

つまり、ASTM1527-13の規格におけるフェーズ1調査報告書の有効期限は180日間(半年間)ということです。

ただ、この180日間というのは、あくまでも調査した日から、操業内容に変更がない、漏洩事故がない、化学物質の使用に変更が無い、大きな災害がないといった条件が付きます。

 

現地調査は、その日の状況を写真で記録することと変わりありません。

 

私の経験上、VDR上に過去の土壌・地下水汚染調査報告書がアップロードされても、やはり最低限の環境デューデリジェンスに基づく調査は実施すべきです。

売り手企業が作成した報告書は、売り手企業の観点から文章が記載され、文言が選定されます。

 

「疑う」という言葉は、一見イメージがよくありませんが、その後(M&A後)の環境リスクの発覚を未然に防ぐことが環境デューデリジェンスの役割の1つでもあります。

つまり、VDR上にアップロードされた過去の土壌・地下水汚染調査報告書は、実施時期に関係なくあくまでも調査対象地の基礎情報の取得として有効活用し、買い手企業は、買い手企業目線のフェーズ1調査を実施することが望ましいと言うことです。

 

 

最後まで記事を読んで頂き有難う御座いました。

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