こんなことを書いてます
環境省 措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールに関する概要を環境DDの観点で調べてみた結果
環境省は平成30年4月1日に改正土壌汚染対策法の第1段階施行を実施しました。そして、平成31年4月1日に改正土壌汚染対策法の第2段階施行を実施しました。
土壌汚染対策法に準拠した土壌汚染問題に関する土地の評価は、日本国内における環境デューデリジェンスのベースとなる評価方法の1つと言えます。
したがって、その土壌汚染対策法が環境省により改正させるのであれば、その概要を企業の環境DD担当者や環境デューデリジェンスを実施する環境コンサルタント会社は理解しておく必要があります。
少なくとも改正の概要は把握しておかなければなりません。
私もその1人なので、この記事では平成31年の改正土壌汚染対策法の概要を少し勉強してみたいと思います。
私が把握している改正内容は数多くあるので、私がわかりやすいところから順番に勉強してみようと思います。
今回は措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールに関連する内容です。
以下の記事でも少し触れましたが、地下水汚染が到達し得る距離の計算ツールが環境省より公表されました。
平成31年に環境省が改正した土壌汚染対策法の概要(地下水汚染が到達し得る距離の計算ツール)
また、以下の記事でなぜ、環境DDにこの地下水汚染が到達し得る距離の計算ツールが有効なのかを記載しているので、是非目を通してみて下さい。
私は国内の環境デューデリジェンスにおいて、「もらい汚染」の観点で有効な計算ツールだと考えています。
環境省より公表された地下水汚染が到達し得る距離の計算ツールは以下のサイトより、エクセルとマニュアル(PDF)がダウンロードできます。
https://www.env.go.jp/water/dojo/law/kaisei2009.html
間違わないでくださいね。今回は、措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールのお話です。
措置完了条件計算ツールの使用目的
まずは、地下水汚染が到達し得る距離の 計算ツールの操作マニュアルから読んでみることにしました。
マニュアルの「はじめに」を読むと以下の内容が記載されていました。
到達距離計算ツールは、土壌汚染対策法施行規則の一部を改正する省令第 30 条の「地下水汚染が生じているとすれば地下水汚染が 拡大するおそれがあると認められる区域」を算出するための計算ツールであり、土壌汚染対策法 第6条第2号の要措置区域への指定の要件の該当性を検討する際に使用されるほか、法第5条に係る調査命令の発出の要件を検討する際に使用されることを想定している。
措置完了条件計算ツールは、環境省令第 36 条の2第 13 号別表第7の「目標土壌溶出量及び目標地下水濃度」を算出するための計算ツールであり、法第7条第1項の汚染除去等計画の作 成の際に使用されることを想定している。
到達距離計算ツールで計算される地下水汚染が到達し得る距離は、土壌溶出量基準不適合に より区域指定された範囲を起点とした 100 年後の地下水汚染到達範囲を評価するものであ る。
到達距離計算ツール及び措置完了条件計算ツールとも、Domenico の解析式を用いており、安全側として帯水層の深度方向を考慮しない平面二次元解析解とし、液相中の有害物質のみが分解するものとして いる。
汚染源地下水濃度は固定値とした。
つまり、土壌汚染対策法に基づく調査の一部として使用する事を想定しているということです。
環境デューデリジェンスでこの到達距離計算ツールを使用する場合は、参考程度ということになります。
しかし、環境省が公式に発表しているツールということを鑑みると、根拠資料としての信頼性は高いと判断できますね。
私は長年、環境デューデリジェンスに携わってきましたが、この到達距離計算ツールが発表されたことはとても意義があることだと思っています。
なぜか?
誰かが誰かに地下水汚染の拡散状況を説明する時の根拠になりえるからです。
ただ、経験上、この到達距離計算ツールが根拠の表層部分であるということは認識しておかなければなりません。
地中の中の地下水の流れはとても複雑です。
この記事の過去問 平成30年度 土壌汚染調査技術管理者試験 問題1を解く際に色々と勉強しました。
興味のある読者の方は、是非、問題1を解いてみてください。
ではでは、本題に入りたいと思いますが、そもそも、措置完了条件って何?となったあなたは、以下の記事を読んでから、この記事をお読みください。
措置完了条件計算ツールを使用するのに必要な項目
まずは、計算ツールを使う為に必要最低限の情報を収集する必要があります。
マニュアルでは以下の3項目が必要と記載されています。
1. 基準不適合土壌の汚染状態を表す資料
土壌汚染状況調査結果報告書や詳細調査結果報告書を参照することにより、区域指定に係る特定有害物質の種類、帯水層の土質及び厚さ、地下水の流向及び動水勾配、基準不適合土壌の大きさ(幅及び長さ)を確認することができます。
2. 要措置区域の指定の際に行政が用いた情報
区域指定の際に地下水汚染が到達しうる距離を計算ツールを用いて算定している場合は、到達距離計算結果の印刷レポートを参照することにより、土質の種類、動水勾配を確認することができます。
評価地点の設定根拠として、要措置区域の指定の事由となった飲用井戸等の位置情報を行政に確認する必要があります。動水勾配、評価地点の設定根拠(地下水流向、土質、物質等)を確認するために用います。
要措置区域の指定が到達距離計算ツールによらず、地下水汚染の到達距離の一般値に基づいている場合、動水勾配は土地の所有者等が設定します。
3. その他の資料
対象地における土質ボーリング調査結果や複数の観測井における地下水位調査結果等、土質や動水勾配を判断するためのより詳しい情報が得られている場合には、その結果を確認します。
措置完了条件計算ツールを使用するのに必要なエクセルのシートを確認
措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールをダウンロードして、開きます。
そして、最初に地下水汚染が到達し得る距離の計算をした物質が1つなのか、複数なのかをエクセルのシート部分で選択します。
2つの「入力シート(一物質)」と「入力シート(複数物質)」の内容を見比べてみましたが、入力値と計算結果が一物質なのか複数物質なのかの違いだけでした。
措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールを使用するのに必要な入力情報を確認
例えば、「入力シート(一物質)」では、「物質種類」、「土質と帯水層の厚さ」、「地形情報(動水勾配)」、「距離」、「基準不適合土壌の大きさ」での区分で計算ツールの内容を分けることができます。
まずは、「区域情報」ですが、全て任意の記入事項です。
土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査や記録の保管が必要な際は、正確に入力する必要があると思います。
記入内容は以下のとおりです。
🔶文書番号:自治体で管理を行う番号を入力します。
🔶状況調査報告 書提出日:土壌汚染状況調査結果報告書の提出があった日を入力し ます。
🔶計算実施日:ツールで計算を実施した日を入力します。
🔶所在地:対象地の所在地を入力します。
🔶自由設定項目:自由に入力するための項目です。
この部分です。
次に「入力値」ですが、この箇所が非常に重要であることは読者の方なら容易に想像ができますよね。
この部分です。
記入内容は、すでに上述していますが「物質種類」、「土質と帯水層の厚さ」、「地形情報(動水勾配)」、「距離」、「基準不適合土壌の大きさ」です。
🔹物質種類:フェーズ1調査(地歴調査)より明らかとなった物質を選択します。
土壌汚染対策法で特定有害物質と定められている26物質を選択することができます。
第一種特定有害物質 (揮発性有機化合物):
クロロエチレン (別名 塩化ビニル又は 塩化ビニルモノマー)
四塩化炭素
1,2ジクロロエタン
1,1ジクロロエチレン (別名 塩化ビニリデン)
1 , 2ジクロロエチレン
1,3ジクロロプロペン (別名 D-D)
ジクロロメタン ( 別 名 塩 化 メ チ レ ン )
テトラクロロエチレン
1,1,1トリクロロエタン
1,1,2トリクロロエタン
トリクロロエチレン
ベンゼン
第二種特定有害物質 (重金属等):
カドミウム及びその化合物
六価クロム化合物
シアン化合物
水銀及びその化合物
セレン及びその化合物
鉛及びその化合物
砒素及びその化合物
ふっ素及びその化合物
ほう素及びその化合物
第三種特定有害物質 (農薬類/農薬+PCB):
2-クロロ4,6-ビス(エチルアミノ)、-1,3,5トリアジン(別名 シマジン又は CAT)
N,Nジエチルチオカルバミン酸S4クロロベンジル(別名 チオベンカルブ又は ベンチオカーブ)
テトラメチルチウラムジスルフィド(別名チウラム又はチラム)
ポリ塩化ビフェニル(別名 PCB)
有機りん化合物 (ジエチルパラニトロフェニルチオホスフェイト(別名 パラチオン)、ジメチルパラニトロ フェニルチオホスフェイト(別名 メチルパラチオ ン)、ジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェ イト(別名 メチルジメトン)及びエチル パラニトロフェニルチオノベンゼンホスホネイト (別名 EPN)に限る。)
複数物質ある場合は、「入力シート(複数物質)」をエクセルのシート上で選択してください。
次は、土質と帯水層の厚さです。
🔹土質と帯水層の厚さ:土質の種類は、詳細調査の結果を使用し、質を選択することを基本とします。詳細調査から帯水層の土質が判明しなかった場合には、到達距離計算ツールの印刷レポートに記載されている土質を選択します。
帯水層の厚さは、計算結果に影響しないため、入力は必須ではありませんが、値を入力しないと計算がされないので任意の値を入力することになります。
原則として、土壌の汚染状態等を把握する際に行った詳細調査で確認した結果を用いますが、不明の場合は、デフォルト値のままで構いません。
帯水層の厚さは、詳細調査結果に基づいて設定することになります。
帯水層の下端が不明な場合は、帯水層底面は深さ 10mの位置とします。
また、帯水層の上端が 10m以深にあり、詳細調査では帯水層を把握できなかった場合は周辺の柱状図データに基づき帯水層の位置及び厚さを確認することが必要です。
ただし、計算ツールでは帯水層の設定厚さは最大 10mとされている為、10mを入力することになります。
土質の選択方法や、選択できる土質の種類については、以下の記事の到達距離計算ツールに記載されている方法を参考してください。
平成31年に環境省が改正した土壌汚染対策法の概要(地下水汚染が到達し得る距離の計算ツール)
選択できる土質は以下の5種類です。
礫:玉石、粗礫、中礫、細礫
砂礫:礫質土
砂:砂質土、細砂、中砂、粗砂
火山灰質土:関東ローム、火山灰質粘性土、凝灰質シルト
シルト質砂:シルト、粘性土、有機質土
図で整理すると以下のとおりです。
さらに以下の注意点があります。
◆○○混じり△△、○○質△△と記載されている場合
柱状図に“○○混じり△△”や“○○質△△”と記載されている場合は、“△△”を主とし て選択する。
◆粘土の場合
粘土しかない場合、粘土層の中の水は間隙水であり、水の移動が無いことから、汚染物質は 移動しない想定とする。(汚染物質の到達し得る距離は 10mと想定する。)
◆埋土の場合、土質が不明の場合
柱状図に「埋土」とのみ記載され土質が不明であり、当該埋土が帯水層となっている場合 は、最大の透水係数をとる「礫」を選択する。
同様に、対象地付近の柱状図が入手できないな ど、土質が不明の場合は、過小に距離を算出することのないよう「礫」を選択する。
また、経験上の話ですが、地下水が被圧されている地域や場所での柱状図の地下水位には注意する必要があります。
例えば、地下水が被圧されている地域や場所でボーリング調査をすると地下水位が通常の深さより上昇することがあります。
次は地形情報というか動水勾配です。
🔹地形情報(動水勾配):対象地の動水勾配を計算し、入力してください。
地形情報(動水勾配)の入力値は、到達距離計算ツールの印刷レポートに記載された値が基本となりますが、観測井の地下水位調査結果に伴い、より詳しい情報が得られた場合には、その結果を用いることになります。
詳細は地下水汚染が到達し得る距離の計算ツールのマニュアル14ページを参照してください。
以下の内容が基本事項です。
▣ 動水勾配の求め方には、[方法1:地形図の等高線から地下水の流向・動水勾配を求める方法]と、[方法2:一斉測水結果の地下水位より動水勾配を求める方法]の2通りあります。
▣ 対象地の推定地下水流向を調べる必要があります。
▣ 対象地を挟んで推定地下水流向の上流地点 、下流地点 をプロットして、水平距離で最大1 km を目安とします。
個人的には、対象地の推定地下水流向を確定させるのには環境コンサルタント会社の技術が必要だと考えています。
単純な地形なら、知見や技術が無くとも確定は問題ないですが、環境コンサルタント会社に助言を求めることがベストです。
複雑なバックグラウンドが対象地の地形にある可能性も想定できます。
また、動水勾配を設定する際には以下の注意点があります。
◆途中で動水勾配が大きく異なる場合は平均的な勾配とします。
◆崖等に湧水がある場合は湧水池点までの勾配とする。
推定地下水流動下流側の地形勾配が変化する場合(特に崖地等 が存在する場合)、到達距離は状況により一般値とは大きく異なります。
◆2点間に標高差が無い場合 臨海部の低地などでは、2地点間の標高差がほぼ0となることがあります。
動水勾配の欄に0を入力すると距離計算の結果がエラーとなるため、ここでは、一般に台地・低地における地形の表面傾斜の最も平らである区分が「1/10,000 未満」とされていることを参考に、 1/10,000 の値を入力します。
次は距離ですね。
🔹距離:必須入力項目です。基準不適合土壌のある範囲のうち、最も評価地点に近い地点から評価地点までの距離を入力します。
詳細調査結果に基づき、基準不適合土壌のある範囲のうち、最も評価地点に近い地点から価地点までの距離です。
評価地点とは…
要措置区域の地下水の下流側かつ要措置区域の指定の事由となった飲用井戸等より地下水の上流側において、措置実施後に地下水基準適合を満たすことを評価する地点。
要措置区域から評価地点までの範囲は、地下水基準を超える可能性があることに留意して、評価地点を設定すること。
Appendix「1 特定有害物質を含む地下水が到達し得る範囲の考え方」に示されている通り、地下水が到達する可能性が高い範囲は地下水の主流動方向を中心に左右 60~90 度の範囲とみなすことが適当とされています。
そのため、区域指定の事由となった飲用井戸等の位置は、必ずしも地下水の主流動方向の下流側直下にあるとは限りません。
指定の事由となった飲用井戸等の位置が開示されない場合、土地の所有者等は地下水の主流動方向の下流側で敷地境界の位置に評価地点を設定する可能性が考えられます。
要措置区域から評価地点への向きと指定の事由となった飲用井戸への向きが異なる場合であって、要措置区域から地下水の下流側の敷地境界に設定した評価地点までの距離が、当該要措置区域から指定の事由となった飲用井戸までの距離より長くなる場合は、措置が完了しても必ずしも暴露経路を遮断できないおそれが考えらえます。
このようなケースでは、都道府県知事から土地所有者等に適切な位置に評価地点を設定させ遅滞なく措置に着手できるよう指導がきます。
🔹基準不適合土壌の大きさ:必須入力項目です。基準不適合土壌の幅と長さを入力します。
詳細調査結果に基づき、基準不適合土壌の幅及び長さを設定します。
対象地の基準不適合土壌を全て囲う最も小さい長方形を、長方形の1辺が地下水流向と平行になるように置きます。
この時、地下水流向と平行な長方形の辺の長さを「基準不適合土壌の長さ」、地下水流向と直交する長方形の辺の長さを「基準不適合土壌の幅」とします。
特定有害物質の種類ごとに基準不適合土壌の大きさが異なる場合は、物質ごとに基準不適合土壌の大きさを設定し計算することになります。
飛び地の扱いについて
基準不適合土壌の範囲の設定においては、原則として全ての飛び地を囲む汚染面積を設定します。
ただし、汚染の中心と思われる箇所から非常に離れて飛び地がある場合であって、基準不適合土壌の範囲が明らかな場合について、どのような汚染面積を設定するかは、個別の状況に応じて土地所有者等で判断することになります。
計算対象となる特定有害物質が複数ある場合
物質により基準不適合土壌の大きさが違う場合、物質毎に基準不適合土壌の大きさを設定し、計算することになります。
措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールを使用して計算結果を確認
最後は、「計算結果」です。
【入力値】で入力または選択したパラメーターより、目標土壌溶出量及び目標地下水濃度が計算され、結果が表示されます。
目標土壌溶出量:
評価地点で地下水基準を満たすために、当該要措置区域において達成するべき土壌溶出量であって第二溶出量基準未満の土壌溶出量。
目標地下水濃度:
評価地点で地下水基準を満たすために、当該要措置区域において達成するべき地下水濃度。
この目標土壌溶出量、目標地下水濃度を下回ることが、措置完了の条件となります。
措置完了条件(目標土壌溶出量・目標地下水濃度の計算)の計算ツールに必要な情報や知識を整理してみましたが、このツールは土壌汚染対策法に基づく調査の一部として使用する事を想定しています。
したがって、環境デューデリジェンスにおいての活用は、参考程度ということになりますが、上述のとおり、環境省が公式に発表しているツールということを鑑みると、根拠資料としての信頼性は高いと判断できますね。
ただ、地中の中の地下水の流れはとても複雑です。
色々な意味で素晴らしいツールだと考えていますが、やはり環境コンサルタント会社の土壌汚染調査技術管理者に相談することが最も良い手なのかもしれません。
餅は餅屋です。
最後まで記事を読んで頂き有難う御座います!!