土壌汚染対策法の地下水基準
日本国内には環境省が定めた地下水汚染に関する基準が存在します。
例えば、以下の地下水汚染に関する基準又は濃度です。
🔷 土壌汚染対策法の地下水汚染基準
🔷土壌汚染対策法の目標地下水濃度
これらの基準は土壌汚染対策法で定められている特定有害物質に関する地下水基準又は設定することができる目標地下水濃度です。
これらの基準は国内の環境デューデリジェンス調査の際に比較すべき基準として採用されています。
各々の基準及び濃度に関する詳細は後述していきますが、上述の地下水基準の一覧は以下のとおりです。(2020年5月25日 現在)
ちなみに上記の特定有害物質の中でカドミウム及びその化合物並びにトリクロロエチレンに関しては、基準値の改正があります。
両特定有害物質の基準は現行の基準と比較すると厳しくなります。
改定される基準値は以下のとおりです。
上記のカドミウム及びその化合物並びにトリクロロエチレンの基準値の改正に関する表内の記載では、土壌に関する基準も変更となることから記載しています。
施行期日は令和3年4月1日からです。
詳細は以下のリンクを参照ください。
土壌の汚染に係る環境基準についての一部を改正する件等の公布及び意見募集(パブリックコメント)の結果について
以下、各々基準値又は目標地下水濃度に関して詳細を記述しています。
土壌汚染対策法の地下水基準
土壌汚染対策法の地下水基準は、全ての特定有害物質に設定されています。
土壌汚染対策法上で「地下水汚染」とは、地下水が地下水基準に適合しないことであると記載されていることから、地下水汚染の有無の判断の1つの根拠となります。
地下水の分析に関する詳細は以下の記事を参照下さい。
観測井戸から地下水を採取する方法は以下の記事を参照下さい。
地下水基準はもらい汚染の可能性の判断や対象敷地内からの地下水汚染の敷地外流出等の評価に使用されます。
もらい汚染に関する詳細は以下の記事を参照下さい。
地下水汚染は、地下水の流れによって基本的に拡散します。
もちろん、汚染プルームとしてその場に留まる特定有害物質もありますが、基本的には少なからず希釈しながら移流拡散します。
地下水汚染の移動に関する詳細は以下の2つの記事を参照下さい。
特定有害物質を含む地下水が到達し得る『一定の範囲』の考え方(Appendix-1)の解説
平成31年に環境省が改正した土壌汚染対策法の概要(地下水汚染が到達し得る距離の計算ツール)
記載が少し遅れましたが、地下水基準が最も重要視されるのは措置の完了条件です。
土壌汚染対策法のガイドラインでは以下の記載があります。
要措置区域の地下水の下流側かつ要措置区域の指定の事由となった飲用井戸等より地下水の上流側において、工事の実施後に地下水基準に適合することを評価する地点(評価地点)を設定し、かつ、当該評価地点で地下水基準に適合するために当該要措置区域において達成するべき土壌溶出量であって第二溶出量基準未満の土壌溶出量(目標土壌溶出量)及び地下水濃度(目標地下水濃度)(措置完了条件)を設定した上で、目標土壌溶出量を超える汚染状態にある土壌又は当該土壌がある範囲についてそれぞれの措置(工事)を行い、工事完了後にその効果を確認するため、要措置区域内の地下水の下流側の工事を行った場所の周縁等に設置した観測井において、目標地下水濃度を超えない汚染状態であることを確認することとした。
なお、土壌汚染の除去については、土壌溶出量基準に適合しない汚染状態にある土地において当該措置を実施する場合に限り、目標土壌溶出量及び目標地下水濃度を設定することとされた。
例えば、以下の措置の完了条件です。
地下水の水質の測定(地下水汚染が生じていない土地の地下水の水質の測定)
当該土地において土壌汚染に起因する地下水汚染の状況を的確に把握できると認められる地点に観測井を設け、当初1年は4回以上、2年目から 10 年目までは1年に1回以上、11 年目以降は2年に1回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質の量を地下水に含まれる試料採取等対象物質の量の測定方法により測定すること。
実施措置に係る全ての実施の方法の完了を報告する場合にあっては、上述の測定を5年間以上継続し、直近の2年間は1年に4回以上測定した結果、地下水から検出された特定有害物質の量が地下水基準に適合しないおそれがないことを確認すること。
地下水の水質の測定(地下水汚染が生じている土地の地下水の水質の測定)
当該土地において土壌汚染に起因する地下水汚染の状況を的確に把握できると認められる地点に観測井を設け、当初1年は4回以上、2年目から 10 年目までは1年に1回以上、11 年目以降は2年に1回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質の量を地下水に含まれる試料採取等対象物質の量の測定方法により測定すること。
実施措置に係る全ての実施の方法の完了を報告する場合にあっては、上述の測定を5年間以上継続し、直近の2年間は1年に4回以上測定した結果、当該地下水が目標地下水濃度を超えるおそれがない汚染状態にあることを確認すること。
原位置封じ込め
構造物により囲まれた範囲にある地下水の下流側の周縁の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について、環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
遮水工封じ込め
埋め戻された場所にある地下水の下流側の周縁の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
揚水施設による地下水汚染の拡大の防止
当該土地の地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる範囲であって、基準不適合土壌のある範囲の周縁の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、地下水汚染が当該土地の区域外に拡大していないことを確認すること。
この場合において、隣り合う観測井の間の距離は、30mを超えてはならない。
透過性地下水浄化壁による地下水汚染の拡大の防止
当該土地の目標地下水濃度を超える汚染状態の地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる範囲であって、基準不適合土壌のある範囲の周縁の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質の量について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超える汚染状態の地下水汚染が当該土地の区域外に拡大していないことを確認するとともに、汚染された地下水を通過させる過程において、特定有害物質を分解する方法により、目標地下水濃度を超えない汚染状態にする場合にあっては、当該地下水に含まれる当該特定有害物質の分解生成物について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、地下水基準を超える汚染状態の地下水汚染が当該土地の区域外に拡大していないことを確認すること。
この場合において、隣り合う観測井の間の距離は、30mを超えてはならない
掘削除去
土壌溶出量基準に適合しない汚染状態にある土地にあっては、土壌の埋め戻しを行った場合には埋め戻された場所にある地下水の下流側の当該土地の周縁の1以上の地点に、土壌の埋め戻しを行わなかった場合には掘削された場所にある地下水の下流側の当該土地の周縁の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
ただし、現に目標地下水濃度を超えない汚染状態にあるときに土壌汚染の除去を行う場合にあっては、目標地下水濃度を超えない汚染状態にあることを 1 回確認すること。
原位置浄化
土壌溶出量基準に適合しない汚染状態にある土地にあっては、B 欄ハの目標土壌溶出量を超える汚染状態にある土壌からの特定有害物質の除去を行った後、当該除去の効果を的確に把握できると認められる地点に観測井を設け、1 年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認するとともに、特定有害物質を原位置で分解する方法により特定有害物質の除去を行う場合にあっては、当該地下水に含まれる当該特定有害物質の分解生成物について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、地下水基準に適合する汚染状態が2年間継続することを確認すること。
ただし、特定有害物質を化学的に分解する方法により目標土壌溶出量を超える汚染状態の土壌から当該特定有害物質を除去した場合であって、当該方法により当該特定有害物質の分解生成物が生成しないことが明らかである場合にあっては、当該地下水基準に適合する汚染状態が2年間継続することの確認に代えて、地下水基準に適合する汚染状態にあることの1回の確認とすることができる。
遮断工封じ込め
B 欄ホにより埋め戻された場所にある地下水の下流側の周縁の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
原位置不溶化
B 欄ハにより性状の変更を行った目標土壌溶出量を超える汚染状態にある土壌のある範囲にある地下水の下流側の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
不溶化埋め戻し
埋め戻された場所にある地下水の下流側の1以上の地点に観測井を設け、1年に4回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質について地下水濃度を環境大臣が定める方法により測定した結果、目標地下水濃度を超えない汚染状態が2年間継続することを確認すること。
土壌汚染対策法の目標地下水濃度
目標地下水濃度は、平成31年4月の改正土壌汚染対策法で新たに土壌汚染対策法に加わった単語です。
土壌汚染対策法では、人の健康へのリスクの観点から摂取経路が遮断されれば十分であることから、要措置区域の地下水の下流側かつ要措置区域の指定の事由となった飲用井戸等より地下水の上流側において、工事の実施後に地下水基準に適合することを評価する地点を設定し、措置完了条件として、当該評価地点で地下水基準に適合するために当該要措置区域において達成すべき第二溶出量基準未満の土壌溶出量(目標土壌溶出量)及び地下水濃度(目標地下水濃度)を設定できることとなっています。
要措置区域における措置完了条件の考え方は以下のとおりです。
上の図が、工事の実施後に地下水基準に適合することを評価する地点を設定し、措置完了条件として、当該評価地点で地下水基準に適合するために当該要措置区域において達成すべき目標土壌溶出量及び目標地下水濃度を設定する図です。
その上で、目標土壌溶出量を超える汚染状態にある土壌又は当該土壌がある範囲について措置(工事)を行い、工事終了後に観測井において目標地下水濃度を超えない汚染状態であることを確認する方法です。
上の図が従前と同様に、汚染の除去等の措置により土壌溶出量基準を満足させ地下水基準適合を確認することにより、要措置区域を解除(形質変更時要届出区域にも指定されない)する方法です。
目標地下水濃度の詳細に関しては、以下の記事を参照ください。
措置完了条件としての目標土壌溶出量及び目標地下水濃度について(Appendix-14)の解読
その他の法律に関する地下水基準
地下水基準は土壌汚染対策法に定めれている基準のみではありません。
土壌汚染対策法と目的は異なりますが、環境基本法の地下水環境基準や水質汚濁防止法の地下水浄化基準及び地下浸透基準によって直接的に調査対象地の地下水を評価することも可能です。
各々の基準の目的が異なるというところが実は重要です。
環境基本法の地下水環境基準や水質汚濁防止法の地下水浄化基準及び地下浸透基準の概要は以下のとおりです。
地下水の水質汚濁に係る環境上の条件につき人の健康を保護する上で維持することが望ましい基準。
地下水浄化基準(クリックできます)(別表第2(第9条の3 関係))
水質汚濁防止法においては、特定事業場(有害物質を製造、使用又は処理する特定施設を設置する事業場。)から有害物質を含む水の地下浸透があったことにより、人の健康影響又はそのおそれがあると認める場合には、環境省令で定めるところにより、特定事業場の設置者又は設置者であった者に対し、地下水の浄化措置を命令することができる。
環境省令においては、有害物質の種類毎に浄化基準を定め、当該基準を達成することを求めている。
地下浸透基準
水質汚濁防止法においては、特定事業場から地下に浸透する水に関して、有害物質を含むものとして環境省令で定める要件に該当するものは地下へ浸透させてはならないとしている。
環境省令において、有害物質を含むものとしての要件とは、「環境大臣が定める方法により検定した場合において当該有害物質が検出されること」とされている。
地下浸透基準は、「環境大臣が定める方法により検定した場合において当該有害物質が検出されること」と記載されており、基準値一覧表は法規制の中に存在しません。
つまり、公定法の定量下限値という理解ができます。
前橋市は「環境大臣が定める方法により検定した場合において当該有害物質が検出されること」を考慮して、基準値一覧表を作成していました。
最後まで読んで頂きありがとうございました!